2.





 紅茶の匂いが鼻孔を擽る。どこか乙女チックなその部屋に踏み入るのは今回で4度目。以前は軽々しく敷居を跨いだこの部屋も、状況を鑑みれば楽しむ余裕など無かった。
 カチャ、と音を立ててクレアがカップを受け皿に戻す。

「――それで、つまりどういう事?」

 責めるような響き。以前、落とされた腕を擦りながらクレアは眉間に皺を寄せている。彼女の腕は美緒が《ローレライ》の能力でくっつけたので見た目、ちゃんと両腕があるように見える。
 ともあれ、その言葉を受けて美緒は肩を竦めた。

「どうもこうも・・・つまり、ブラッドを殺したのは《ジェスター》じゃないよ、って話かな」
「・・・で?」
「あまりそう、幼稚な挑発をしない方がいい、クレア」

 茶菓子を運んで来たレクターがそう言って溜息を吐いた。彼の正体は美緒には分からないのだが、どうにも執事紛いの行動を取っているのでそういう人物なのかもしれない。
 きっ、とレクターを睨んだクレアが机を両手で叩いて立ち上がる。

「煩いな!黙ってて!」
「ならば黙っていようか」
「・・・あのー、で、話の続きしていい?」
「ミオ。今度はあたしを使って誰を殺したいのかしら?もう、あの子はいいのね?」
「ごめん、って」

 ――前回、《ジェスター》事ディラスを襲撃した際、クレアを動かす為にこれ幸いと仲間の仇討ちの為という大義名分を付けさせた。もちろん、美緒が咄嗟に考えついた方便である。故に、このややこしい状況に陥っているわけだが。
 禍根が消えてしまった以上、《道化師の音楽団》と無理矢理関わらせるわけにはいかない。こちらに飛び火されても困るし、何より真白が迷惑するだろうし。

「もう、真白を殺す必要無くなったから、誤解は解いた方がいいかな、って?あ、怒ってる、かな?」
「当然でしょ。あたしをおちょくってるの!?」
「だーよね」

 さて、どうしたものか。浮かべる笑顔とは裏腹に美緒はそう思案して小さく溜息を吐いた。