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馬車独特の揺れ。すぐさま色々なトラウマが掘り返されて眉間に皺を寄せた真白は小さく浅く溜息を吐いた。それを見ていたラグが疑問符を浮かべる。
「真白、お前って乗り物酔いしたっけ?」
「しない。けれど・・・ちょっと馬車は、あまり好きじゃないだけ」
「マジかよ、真白っち。この先困るぜ、馬車乗れねぇと」
歩くのも嫌いだけど、と付け加えた真白は目を伏せた。王都へ行く、この馬車の中。馬2頭の蹄の音だけがやけにリアルだ。
ふと、マゼンダが「あたしが言う事じゃねーけどさ」、と口を開いた。険しい顔をしているので、それなりに真剣な話をしたいようだ。その視線の先にいるのはラグである。
「何だよ」
「お前どうして、真白っちが行くの許したわけ?正直、あの場で戦闘になるかもしれねぇとまで、あたしは思ってたんだけど」
「昔っから真白は俺の言う事聞かねぇからな。ずっと監視してるのも面倒だし、だったらいっそ俺が着いて行けばいいかと思ったんだよ」
「成る程ねぇ。えーっと何だったっけ?帰る条件?確か、全員揃わなきゃならないんだよな。なら、1人でも王都にいなければいい、ってやつか?」
「おう。美緒は完全に別件で留守だし、上手くやれるだろ。何の打ち合わせもしてないけどな」
一応は納得したマゼンダが頷いた。賢明な判断だ、と何故か上から目線。そして、その視線を維持したままで彼女はある一点を見た。
「――で、ディラスよぉ。何でお前はそんな不機嫌なワケ?」
「・・・不機嫌じゃない」
「ものっそい不機嫌だろが!そんなに行きたくなかったのか!?」
「マゼンダなんて放っておけばいいだろうに・・・真白」
唐突に話を振られたからか、若干眠そうに目を瞑っていた真白の目蓋が持ち上がる。会話の流れは一応把握しているらしく、彼女は方を竦めて見せた。
「マゼンダの為だけじゃないから」
「ああ、そうだったな。それこそ不愉快だが」
餓鬼か、とラグが茫然と呟いたところで、馬車が停まった。どうやら目的地に着いたらしい。