3.





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 あたしの話はこれで終わりだ、と何故かソファに踏ん反り返るマゼンダ。自暴自棄になっているのかもしれない。
 はぁ、と溜息を吐いて頭を抱えたアルフレッドが不意に部屋の外を見る――

「てめぇ、ラグ!そこにいるだろ。隠れてねぇで出て来い!」

 真白は全然気付かなかったが、どうやらドアの外でラグが聞き耳を立てていたらしい。アルフレッドの声に応じるように、あるいは観念するようにラグが姿を現す。その顔には自嘲めいた笑みが浮かんでいた。
 苛々とアルフレッドが舌打ちする。今日、彼の機嫌はMAXレベルで悪い。さすがのディラスもそれを察したのか、鬱陶しそうに溜息を吐くという火に油を注ぐような動作を取った。

「双子以外全員揃っちまったな・・・もういい。沈み込んだ雰囲気を更に粉砕する事になるが、お前達にも報告しておく」
「ああ?まだ何かあるのかよ・・・どうなってんだ《音楽団》」

 うんざりしたようにマゼンダが溜息を吐く。そんな彼女の隣に腰を下ろしたラグは、いつも通り会話に混ざった。

「いいのかい、俺にまで教えちゃって」
「構わない。まあ――報告、というのはあれだ、リンネが殺された。手口からして《黒鏡》だろうな。依頼人は分からない」

 言って、アルフレッドが先程からずっと握りしめている小さな紙切れに目を落とす。恐らく、遺書というか遺言というか、そんな類のものだろう。
 すっ、とディラスが手をその紙に伸ばした。

「中身を見せろ」
「・・・大した事は書かれてねぇよ」

 ディラスが受け取った紙。成り行きで真白もまた、それを覗き込んでみた。
 遠目に見て赤い紙だと思ったが、何の事は無い。これは血痕だ。リンネが殺された、とアルフレッドは言ったがこれは所謂、『そういう』殺され方をしたのだと珍しく少女は察して顔を反らした。
 いつの間にか寄って来ていたマゼンダがその紙を覗き込み、顔をしかめる。

「何だこれ・・・読める部分は、『王』だけか」

 後はほとんど血痕で覆われており、まったく読めない。ディラスの眉間の皺がさらに深くなった。

「いやこれは、意図的にこの部分だけ隠しているようにも思える。指で伸ばした痕だろう」
「言われてみればそうかもしれない」

 「もっと他に遺すものがあっただろ」、そんなアルフレッドのどこか呆れたような声が鼓膜を打った。