3
どこへ向かっているのかは分からないが、途中、不意にマゼンダが足を止めた。どこにもたどり着いていないというか、廊下のど真ん中である。ここが目的地だと言うのならば納得する理由が欲しいものだ。
――が、もちろん止まった理由は他にあった。
「どこへ行くつもりだ、マゼンダ」
厳しい顔をしたアルフレッドが道を塞ぐように立っている。眉根を寄せ、どこか非難じみた視線を向ける相手はマゼンダだ。そんな彼女の表情は背を向けている為見えない。
「どこだっていいだろ、退け」
「無理だな」
睨み合う二人。ふと、アルフレッドがその長い指に小さなメモを挟んでいるのが見えた。遠目には何が書いてあるのか読めないが何だか赤い紙である。
しかし、いつまでもこの状況はよくない。
そう判断した真白はそっとマゼンダの手を振り払った。しかし、彼女は振り返らない。ただただアルフレッドの方に顔を向けているのみである。
「――何の状況だ、これは」
後ろから声を掛けられて肩が跳ねる。随分近くで声がしたと思えば、真白の顔の位置と同じぐらいの位置にディラスの顔があった。わざわざ屈んだらしい。
「ディラス・・・驚かさないで」
「そういうつもりは無い。で、何だこれは」
「さぁ・・・」
今までの経緯をかいつまんで話す。黙って聞いていたディラスは小さく溜息を吐いて、意識だけこちらに向ける二人へ視線を移した。
「いつまで見つめ合っているつもりだ。アルフレッド、いいから僕に用件を話してくれ。暇では無い」
「・・・お前はもうちょっと空気とか読めないのかね」
珍しく刺々しい――苛立ったような溜息を吐いたアルフレッドはくるりと背を向けた。さすがにこの場で何かを話すつもりはないようで、向かう先は明らかにロビーである。