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どうだろう、僕と旅に出ないか真白?
そんなディラスの台詞を咄嗟に思い返す。一応は思考を巡らせてみたのだ。不自然な間が空いたが、ディラスは黙ってこちらを見ている。待っているのだ。真白が何かしらの返事をするのを。
けれど、考えてみたところで答えは同じだった。
「・・・うん、行く。行くわ!」
「そうだろうな。アルフレッドには僕が話しておくから、支度でもしろ。出会った時のように何の荷物も無いわけじゃないだろう」
「分かった」
「他の連中には黙っておけ。とくに、ラグには」
「うん」
アルフレッドに対して実に冷たいディラスだが、一応リーダーとしては認めているようで黙って出て行く事はしなかった。少しばかり微笑ましい話である。
***
そんな会話をしたのがだいたい1時間前。
自室に戻った真白はこの数ヶ月で増えに増えた荷物の整理をしていた。現代日本ならば交通手段はもっぱら車なのでいくらでも、バッグに詰められるだけ詰めて泊まりをしていたがここではそうはいかない。
ディラスは金持ちではないだろうからきっと移動手段は徒歩。最初の方は馬車なんていうトラウマ車を使うかもしれないが、中盤からはきっと――否、絶対に徒歩。
それを考えると重すぎる荷物は邪魔になるだけなので自重したいものだ。
「・・・浮かれてる」
うっかりしてると鼻歌でも唄ってしまいそうな心境にそう呟いてみる。ドラマで言う『駆け落ち』なんて単語が脳裏を過ぎった。
そんな甘いものじゃなく、本当の意味で人生が掛かった逃亡劇なのだが、そんな単語でロマンチックに飾り付けるのも悪くはないのかもしれない。