2.





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 自室へ戻ったリンネはメモ帳にカリカリとメモ書きを残していた。黒いインクが伸びていく様は何故か見ていて楽しい。

「――いるのならば、声を掛けたらどうですか?」

 意図的に発したような気配を感じ、ゆっくりと振り返る。
 全身黒ずくめ、まるで影を切り取ったようなその人物は首から黒い鏡のネックレスをさげていた。無造作に壁に寄り掛かり、リンネの作業を見つめている。
 ――暗殺者《黒鏡》、セドリック。
 それが彼の名前だし、リンネもそれ以上の情報は知らない。それに偽名である可能性も大いにあった。しかし、名前など心底どうでもいいのでツッコまなかったが。

「――時間はやったぞ」
「ええ。・・・それにしても、《黒鏡》が対象者の望みをきくなんて、世の中何が起きているのやら」
「《音楽団》に知った顔を見つけた。興味本位だ」
「・・・?」

 どういう意味だ、と訊こうとしたがそれはセドリックが軽い動作で一歩こちらに詰め寄った事で中断させられた。

「もう時間だ。そろそろ俺も依頼成功の報告をしなければならない」

 一歩下がる。と、とんと背中が壁に触れた。そう広くもない部屋だ。
 チリン、と腕に着けた両の鈴が可愛らしい音を立てる。もちろん、何の抵抗も無く殺されるつもりはない。幸い、ここは屋敷内だ。音を立てれば誰か来るだろう。
 そう考え、臨戦態勢を取る。ちりん、と鈴が鳴って――
 その腕がゴトン、という鈍い音を立てて床に転がった。

「あ――」
「騒がれると困る」

 上げかけた悲鳴だか何だかは一瞬の間に目前まで迫っていたセドリックに手で口を塞がれた為に呑み込んだ。状況を理解する暇も無く、首辺りに灼熱感を覚えて視線を動かす。
 パッ、と上がった赤い鮮血が頬に付着した。視界が霞む。
 支えを失った身体はしかし、腕を掴まれた事によりゆっくりと床におろされた。黒い足が踵を返す。

「先王ではなく、現王の命令だ。悪く思うな」

 最期に聞いたのは、おおよそリンネが想像していた結末とは掛け離れている言葉だった。