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「――それで、他の人間は帰れなくていいと?」
「突っ込んだ事を聞いてくるのね」
一瞬だけ黙り込んだ彼はそう問うた。真白は首を横に振る。答えたくないと言わんばかりに。が、ディラスは黙秘する事を赦さなかった。
「お前には美緒を逃がした前科がある。誰も彼もが有象無象だと言うわけじゃないだろう」
「あれは本当に何をしたのか自分でも分からないわ。ただ、目の前で知っている人が死ぬのは精神衛生上良くないと思って」
それに、と少しだけ目を伏せた真白はポツリと呟いた。
「みんな自分勝手な事ばかり。私にだって我が儘を言う権利くらいあるはずじゃない?私には私の目的が出来たわけなのだから、リーダーに従う義理は無いと思う」
それまで流されるように彼の意見を聞き続けたのは「どっちでもいい」、「別に何でもいい」とそう思っていたからだ。自分にやりたい事が出来た今、彼の意見を聞いてやる必要は無いだろう。
けれど――今からどうするべきなのか。淡嶋由があのまま終わるはずなどない。それはラグも美緒も同じ事なのだが、1人でいる上、自分自身の生活もままならない真白がこのまま彼から逃げ続ける事など出来るだろうか。
「――真白?」
「ちょっと考え事をしていたわ」
「どうせこれからの事だろう。それについては僕がいいアイディアを思いついた」
「えっ・・・あっ、そう・・・」
「全然期待していないだろう、その顔は」
ちっとも信じられない発言だったが、一応は年長者である。何か良い案を本当に思いついたのかもしれない。
「ほとぼりが冷めるまで、旅に出る。一カ所に留まるより点々と動き続けた方が良いだろう?」
「良い考えだけれど・・・《音楽団》はいいの?放っておいて」
「もともと、お前がここでの暮らしに慣れればさっさと旅にでも出るつもりだった。それが少し早くなっただけだろう」
「私の事、置いて行くつもりだと思ってた」
「時間とは偉大だな」
神妙そうな顔をして頷くディラス。そう、これが一月も前の話ならば容赦無く見捨てられていたに違い無い。そう思えば彼の一言はあらゆる意味で重みがあった。
暫くここ最近起こった事を思い返していたらしいディラスがこちらを見る。
「それで、どうする?真白」