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「あのね、ディラス」
どうした、と水を飲みながら音楽家が応じる。一瞬だけ視線を机の上辺りにさ迷わせた真白は一つ溜息を吐くとあくまで、粛々と話始めた。
「アルフレッド達には言わないで欲しいのだけれど」
「隣町へ行った時の事か?」
「ええ」
あまり聞きたくはないな、と呟いたディラスはしかし大きく頭を振ると「聞こう」とだけ言った。彼にとってもあまり考えたくない話らしい。それに、アルフレッドに報告した様子も無い。いったい何を考えているのか――
そしていったい何から話せばいいのか。
考えを巡らせていると、そんな真白の戸惑いに気付いたらしい音楽家が尋ねた。
「お前の知り合いらしい、ミオとかいう女は結局何だったんだ?」
「元の世界のバンド仲間だった。あ、あと・・・ラグとキリトも。それに、もう一人由って人がいる」
「そうか。奴等は内輪揉めでもしているのか?」
――そう。詳しくは分からないが、どうもこちらへ飛ばされた仲間達間で諍いが起きている。それも、真白を巻き込む形で。淡嶋由に聞いた話だとそれで辻褄が合う。
「その・・・由とキリトは元の世界へ帰りたいけれど、美緒と、多分ラグはここに残りたいみたい」
「それで、何故お前がそれに関わる?」
「全員が揃わなければ、帰れないから。私自身、そういうのには関わりたくないけれど向こうはそういうわけにはいかないの」
どうあっても帰る、そういう意志が由からは感じられた。キリトもそうである、とは断定出来ないが由に力を貸している時点でいくらかは帰りたい気持ちがあるのだろう。
帰りたい派、帰りたくない派。
そういった具合に分かれて、混沌としているのが現状だ。
「僕にとって一番重要な事を訊いてもいいだろうか」
「え?ええ・・・」
「お前は帰りたいのか、それとも帰りたくないのか?どちらでもいい、とは言ってくれるなよ」
どうしていきなりそんな事を訊いてくるのかは正直よく分からないが、それでも真白の中での答えはすでに決まっている。
「帰りたくないよ。だって、気に入っているの、ここ」
「・・・そうか。ならいい。問題は無いな」
少しだけ細められたディラスの瞳と目が合う。やはり、彼が何を言いたいのかは分からなかった。