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　事態が進展したのはそれから数時間後の出来事だった。
　どことなくディラスを忌避していた真白はそこでようやく３日前の件を話す決意をした。というか、このまま何だかモヤッとしたままにしておくのは精神的観点から見ても良くないと判断したのだ。
　――が、その決意は出鼻を挫かれた。
　恐らくは音楽室にいるだろうと思われていたディラスがどこにもいないのだ。急速な不安に襲われつつ、一先ずロビーへ。

「あ、ディラス――」
「よお、真白」

　あからさまに眉根を寄せる真白。
　ロビーにはディラスだけではなく、その向かいに座る形でアルフレッドの姿もあった。人の気も知らず呑気なものである。
　理不尽な怒りを抱きつつも、暫し逡巡する。はたして、どうせくだらない話をしているであろうアルフレッドに割り込んで、ディラスと２人きりになれるだろうか。或いは出直して来た方がいいのだろうか。

「真白、お前もちょっと来いよ。話というか、報告があるんだ」
「そう」

　招かれるまま、ディラスの隣に座る。音楽家と一瞬だけ目が合った。

「マゼンダが双子を捜しに外まで行った。ちょっと異常事態だから、お前等も気を付けておけよ。誘拐、つっても奴等は《ローレライ》だからな。特に真白はあまり１人で行動しない方が良いぜ」
「帰ってないの？」
「残念ながらな。俺達もちょっと悠長にし過ぎた」

　ディラスの眉間に皺が寄る。

「何か起きているのか？」
「さぁな。マゼンダ個人の件でそうなってるのか、それとも《道化師の音楽団》への挑戦状なのかは知らないぜ」
「そうか・・・真白、あまり外を出歩くな」
「私、１人でこの屋敷から出た事無いわ」

　騒がしい双子――イリヤとイリスを思い浮かべる。あの２人の性格からして、どこか出歩いていると思ったが自分達が隣町へ出掛けている間も帰っていなかったらしい。

「じゃ、双子見掛けたら帰還命令出しておけよ。俺は忙しいから、もう行くぞ」

　一方的にそれだけ告げるとさっさとアルフレッドは自室の方へ歩き出してしまった。残されたのは音楽家と災厄だけである。