エピローグ





「どうしてここに?」
「出張みたいなものだ。ところで、淡嶋が呼んでいる」
「リーダー?」

 淡嶋由――現在もそう名乗っているのかは知らないが、彼こそが元メンバーのリーダーである。とは言っても彼がリーダーらしい行動を取ったのはむしろ解散後の話であり、そもそもがそういうタイプでは無いようだが。
 驚きは無い。全員がこちらへ来ているというのはラグこと柊の話ですでに聞いている。

「淡嶋は今、何をやっているの?」
「奴なら今――」

 答えようとキリトが口を動かしたところで正面から人影がゆらり、と現れた。
 彼が片手をゆるく挙げる。

「やあ、真白。久しぶりだね」
「あ、リーダー・・・」

 金髪に碧眼。けれど、どこかアジア人系の顔――彼はフランスだかドイツだかの血が混ざっている、所謂ハーフだ。そのせいかこの世界観にも溶け込んでおり、違和感が無い。
 どこか上品に微笑んだ彼はキリトの代わりに質問の答えを引き継ぐ。

「僕は今、王様をやっているよ」
「・・・はい?でもこの間、お城へ行った時にいたのは貴方じゃなかったわ」
「そうだね。影武者、ってやつだから、彼。王都を《宴》の連中が徘徊しているのは知っていたから、僕本人があそこにいるわけにはいかなかったのさ」

 ディラスと王室で演奏した時。あの場にいたのは妙齢の男性だった。王としての威圧感というか圧迫感も備えており、「ああこれが王様なのか」と納得したのは記憶に新しい。
 それより、同僚がまさか一国の主になっているとは驚きだ。さすがの真白もぎょっとした顔をして彼が嘘を言っているのではないか、とキリトを見やる。目を逸らされた。

「ところで真白」
「あ・・・私に、用があったの?」
「ああ、そうだよ。だから桐寿と君を捜していたんだ。君、元の世界へ帰る方法を美緒から聞いたかい?」
「・・・ええ」

 ――「ねぇ、真白。今、一番前の世界に未練があるのは誰だろうね?」
 ふと脳裏に美緒の問い掛けが甦る。どこか自嘲めいた響きだったので、本当なら彼女が一番帰りたがっているのだと思っていた。けど、それは違った。彼女はこの世界に留まる為に必死だったのだ。
 なら――本当に帰りたいのは?私ではない。
 とん、と肩に手を置かれる。思わず顔を上げると、笑っているけど笑っていない、そんな顔をした由の顔がある。

「だったら話は早いね。僕に協力して欲しい。美緒は帰りたくないらしいから――」
「止めて!」

 伸びてきたもう片方の手を払う。その手、というより真白の声に驚いたのか由が半歩後退った。《歌う災厄》としての効果を知っているらしい。
 キリトが何かを叫んだ気がしたが、瞬間には身を翻して走る。
 淡嶋由に捕まれば終わりだ――そう、脳内が警鐘を鳴らすのを鮮明に聞いた。