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重い足を引き摺るようにして宿の1つに帰った美緒は部屋の電気が点いている事に気がついた。消してきたはずだから、つまり――
「柊?来てるのかな?」
クレアの腕をくっつける為に買った、付け焼き刃の手にあまり馴染まないフルートを握りしめる。室内へ入ってみると、備え付けのソファで眠る柊の姿を認めてほっと息を吐いた。どうやら強盗とかではなかったようだ。
頭を叩いて起こす。こんな所で寝なくとも、ベッドを使えばよかったのに。
「お、帰ったか。どうだった?」
フルートを唇に近付けたところでそう問われたので、渋々それを机の上に置く。
「どう、って・・・ごめん、やっぱりあたしに真白は――」
「そうか。まあ、その方がよかったろ。ディラスも強ぇし、そもそも人殺しなんてよくねぇわな」
「自分で言い出しておいて恥ずかしいけどね」
「気にするなよ。どうせ出来ねぇと思ってたから」
「何それ酷い!」
それより、と美緒は天井を仰ぐ。真白が真白のままであったならば、恐らく躊躇いつつも目的を達成していただろう。けれど、彼女は良くも悪くも――人間的に成長していた。とても人間らしくなっていた、がより適当かもしれない。
会話が終わった事を確認し、フルートを今度こそ唇に当てる。柊が少し具合悪そうだし、何よりクレアの介抱をしていたら思った以上に帰りが遅くなった。
「いつも悪いね、美緒」
そんな声が背後から聞こえてきたが、それを無視するように美緒は音色を奏で続ける。