4.





 それは事実上、決着がついた事を意味する。純粋な戦闘員はクレアだけだったし、ディラスも腕を負傷してはいるがもう片方の腕は健在。利き手を失った彼女に勝ち目が無いのは誰の目にも明白だった。
 それに――もう、美緒の加護は無い。落ちた腕をくっつけようにも、楽器が破壊されてしまえばそれが叶わないのは当然のことである。
 何の脈絡も無く真ん中からへし折れたフルートを何の感慨も抱かず眺めていた美緒の双眸が真白を捉える。
 ややあって、溜息を吐いた彼女は流れる血を止める為、ある方の手で利き腕を押さえるクレアへ駆け寄った。傷の具合を確かめる。

「真白。君、こっちでもこんななんだね」
「そうね」
「責めているわけじゃないけど、やっぱりいつ見ても恐ろしい現象だよ」

 それだけ言った美緒が静かにクレアを見やる。

「あたし達の負けみたい」
「・・・随分落ち着いているようだけれど、《ジェスター》の存在を忘れたの?殺されるわよ」

 はっとして美緒が顔を上げた。そう、ここは平和な現代日本ではない。それに真白の記憶上、ディラスは滅多な事では敵対者を見逃さないのだ。それが、真白の前であろうと遠慮容赦無く弦だか何だかで相手の首を斬り落とす。
 例の如く、やはりディラスは残った腕に巻き付いた弦を引いた――

「待って」
「・・・真白」

 止めてはみたものの、そこから先の言葉は無い。こういった状況に陥った事が無いので、何と言えばいいのか分からなかったのだ。
 暫しの沈黙――

「もういい、行け。疲れた、宿へ帰る」

 折れたのはディラスの方だった。忘れられがちではあるが、彼だって怪我人。どのくらいの傷の深さなのかは真白には断じきれないものの、それが結構な大怪我である事だけは薄ボンヤリ分かっている。
 ディラスと真白を交互に見た美緒が立ち上がり、落ちたクレアの手首を拾って踵を返す。最後に鋭い視線だけ音楽家に向けたクレアもまた続いた。

「――美緒」

 呼べば微かに同僚が振り返る。一瞬迷った後に、真白は静かに呟いた。

「ねぇ、私、本当はちっとも帰りたくなんかないわ」