4.





「本当はね、真白っち。あたしは君が全部知ってるんじゃないかなって思ってたんだよね」
「?」

 どこか自嘲気味に言う美緒は肩を竦めた。ディラスとクレアだけが話しについて行けず、微動だにしないで会話を聞いている。
 何のことだか分からない真白はただただ首を傾げた。

「何が?」
「いやさ、あのカフェで帰る方法について考察したでしょ?」
「そうだったっけ・・・」
「したんだよ!それで、『全員揃わないと帰れない』、って真白が言ったじゃん?」
「ああ。言ったような、言ってないような」
「うん、それ聞いたらやっぱり想像上の産物だったんだってよく分かるわけだけどさ」

 あの場で話した全ての事は真白にとっての暇な時間を潰す為の言葉でしかない。それが真実であろうとなかろうと、どちらでも同じ事なのだ。けれど、どうやら不用意に口走ったらしい言葉がこの状況を生み出してしまったらしい。

「あのね。あたし達が元の世界へ帰る為の条件は、たった1つ。同じ場所に全員が生きたまま揃う事なんだ。いや、その後に何か色々手順があるっぽいけど」
「そうなんだ」
「本当に興味も関心も無いんだね。ところで、あたしは帰りたくない。ずっとここにいたいわけなんだけれど」
「いればいいでしょう」

 ――美緒の言わんとする事が分からない。
 怪訝そうな顔をしていたのだろう。かつての仲間は少しだけ悲しそうに、哀しそうに笑った。けれど、躊躇う気配は一切無い。

「人を揃える事は意外と簡単なんだよ、真白っち。本人の同意は必要無い。とくに、厳しく法律に守られていないこの世界では」
「はっきり言って。意味が分からないわ」
「つまり、絶対に帰れないようにする為には、誰でもいいから1人、欠けさせればいいってわけ」

 瞬間、後ろから強く襟首を掴まれて引っ張られた。一瞬だけ息が詰まる。何かが頬を掠ったような気がした――

「ディラス・・・」
「ぼんやりするな。死にたいのか」

 呟くようにそう言った音楽家は珍しく眉根を寄せて何かを思案するような顔をしていた。