3.





「――真白」
「?」

 立ち去ろうとしたところ、ディラスに呼び止められた。しかし、間。その後の言葉がなかなか聞こえない。

「・・・ラグの様子を見ていてくれ」
「珍しいのね。ディラスがラグの心配をするのって」
「顔色が悪そうだったからな。僕が見に行くのも癪に障る」
「そう。分かった」

 もともとはラグの部屋へ行くつもりだったので大して勘繰ること無く真白はかつての同僚の部屋へ足を向けた。もちろん、背を向けていたのでディラスの凍るような無表情を見ること無く。
 部屋へは帰らず、そのまま真っ直ぐラグの部屋へ向かう。

「――ラグ?いる?」

 ノックして部屋の中へ尋ねるとややあってガタガタと人が動く物音が聞こえた。眠っていたらしい。そうだとしたら悪い事をした。
 大した罪悪感も抱かずに漠然とそう思っていれば、やはり寝起き顔のラグが出て来た。これだけを見るとかつての輝かしい面影はなく、ただの中年男性に見える。

「おう、どうした?」

 室内へ入れてもらいつつ、ラグの顔色を一瞥する。あまり良い顔色とは言えなかった。まったく散らかっていない居間へと通された真白は無遠慮に椅子に腰掛けた。

「ラグが具合悪そうだったから」
「へぇ。心配してくれんのか?・・・まぁ、ただの二日酔いだけどな」
「二日酔い?」
「飲み過ぎた、って事。で?お前は美緒に会えたのか?」
「会えたわ。前もって言っておいてくれればよかったのに」
「何事にもサプライズは必要だろ」

 意味の分からない理論だった。しかし、ラグが意味の分からない事を口走るのは今に始まった事では無いので黙認。

「お前今、失礼な事考えてただろ。まぁ、いいが。そろそろ部屋帰れよ。またディラスの奴が不機嫌になるし・・・俺も、頭痛ぇ。寝てたい」
「じゃあ帰る。おやすみ」
「おーう」

 何をしに来たのか忘れるくらいに呆気なく、真白はラグの部屋を後にした。もう部屋へ戻って寝るだけである。