3.





 全員が宿へ帰ってきた頃には日は沈み、夕方と言うより夜と言った方が適当な時間だった。ラグは随分疲れていたらしく、宿のロビーへやって来、食事もそこそこに部屋へ帰って行った。本当に疲れていたようなので、後でちょっと顔を出してみようと思う。
 残された真白とディラスは夕食を取っていた。

「――何か変わった事は無かったか?」
「変わった事?」

 不意にされた問い掛け。一瞬焦った真白はしかし、舞台で磨いてきた演技力を駆使して動揺をけっして表には出さなかった。
 昼は美緒が尋ねて来たのだ。それだけならまだしも、彼女は《賢人の宴》。ディラスに伝えて大事になるのは避けたい。故に、《歌う災厄》は黙って首を横に振った。

「退屈だったわ」
「それは悪い事をしたな」
「ディラスは何をしていたの?」
「演奏をして、その後は少々調べ物をしていた。随分、遅くなったようだが」

 自嘲めいた顔で時計を見たディラス。さすがにこんな時間になるとは予想していなかったらしい。ラグの方が先に帰って来た時は彼に何かあったのではないかと思った。

「この後はどうするの、ディラス?」
「この後?この後は――」

 何かを考えるように黙った音楽家はややあって悩ましげな溜息を吐いた。真白には意味の分からない動作である。

「何も無いな。部屋に戻って休むだけだ」
「そう。じゃあ私もそうする」
「・・・何か言いたい事があるのなら、黙らず吐いた方が良いぞ」
「その言い方だと、私が何かいけない事を隠している、と言ってるみたいだね」
「そうは言っていないだろう」

 キリトにラグ、美緒と出会ってから自分の口調が刺々しくなっているのは実感している。かつての仲間と言えど、こうやって事あるごとに絡まれては迷惑以外の何者でもないのだ。
 肺に溜まった、どこか釈然としないような不安定な感情を吐き出し立ち上がる。何だかこの街にずっといるのは危険である気がしてならない。早く明日を迎え、ここから去りたいものだ。