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真白が頷いたのを確認し、語り部たる彼女はひどく深刻そうな顔を白々しく作り話始めた。雰囲気が出ないことも、ないかもしれない。
「それがね、真白が頭のイカれたディレクターさんに刺された後、メンバーみんなでお葬式に行ったんだよ」
「どうして?もう、解散した後じゃなかった?」
「それは前の付き合いって事と――あとね、丁度あの時このメンバーを再結成するとか、あのメンバーで番組に出るとかいう企画が上がってたわけ」
「面倒ね」
「うん、あたしも真白なら絶対にそう言うと思ってたよ。最年少のくせに、言うこと言うもんね」
再結成は場の流れだったとしても、企画の方は本気だったのかもしれない。あまり話を聞いていなかったから分からないが。
「で、企画上がったからみんなに伝えようって段階でさ、リーダーが『真白には最後に伝えよう』、とか言い出してね」
「そう」
「あ、やっぱりショックとか受けないんだね。で、それで。ちょうど君も番組収録中だったし、それが終わってから『企画出来たから絶対参加ね』、って形で伝えようとしたの」
「そうなの」
「――そうしたら、あの事件が起こったってわけ」
だから何だと言うのだろう。ぼんやりと真白は彼女の意図について思考を巡らせてみたが、やはり美緒が伝えんとしている意は分からなかった。
「うーん。だからね、真白の事件が起こった時、実はメンバー全員同じ場所に集結してたってか君の収録が終わるのを待ってたってわけ」
「それがどうしたの?」
「それでお終い。あとはみんな、思い思いの死因でこっちへ来ちゃったってわけ」
「長々と話をした意味が分からないのだけれど」
「そーいう企画が上がってたよ、って話。リーダーがわりと楽しみにしてたみたいなんだよね。だってほら、あの人、今を輝くトップシンガーだったわけだし。たまには昔のメンバーで集まりたかったんだよ。だって、あの頃がみーんな平等に売れてたでしょ?」
「売り上げとか気にしたこと無いけど」
「売れてたの!」
ところでさ、とこれまた強引に話を変えられる――否、恐らくこの話の延長上なのだろう。まだ話を終わるにしては早過ぎる。
「ねぇ、真白。今、一番前の世界に未練があるのは誰だろうね?」
「・・・美緒じゃないの?」
「いいや。あたしは結構面白可笑しく暮らしてるから、別にどこでもいい――いいや、帰りたくないな。君はどうなの、真白?」
そうね、と一応考える素振りだけ見せた真白はしかし特に考えもせずこう口にした。
「どっちでもいいわ。それよりも現実の方で私は死んでいるのに、どうやって戻るのかっていう問題があるけれど」
「・・・戻れないなら、もう戻らなくていいって?」
「ええ。けれど――こういう話にありがちだけれど、『全員揃わなければ帰れない』なんていう理由で全員帰らなければならないのなら、それに従うよ」
「そうなんだ。帰りたいわけじゃないんだ?」
「帰りたいの、本当は?」
いいや、と首を振った美緒は半分残ったコーヒーをそのままに立ち上がった。帰るつもりらしい。引き留めるつもりはないが、何となく流れで時間を確認。そんなに話したつもりは無かったが1時間も過ぎ去っていた。
「じゃあね、真白。あ、そうだ。あとね、薄々気付いてると思うけど、柊・・・じゃなかった、ラグが言ってた《賢人の宴》のスパイってあたしの事だから」
踵を返した美緒が足早に喫茶店から出て行く。ヒールが立てる、カツカツという音だけが何故かいつまでも頭の中に残っていた。