2.





 彼女がここにいる事そのものに驚きは無かった。ラグの事前情報により自分を含むメンバー5人がこの世界へやって来ているのは知っていたからだ。ただ、タイミングと、そして――

「美緒・・・」

 彼女の腕に嵌められた赤いバングルが問題だ。まったく予期していなかった事態。胸元の逆さ音符の銀ブローチは当然の如く輝いているし、何より今、真白は一人きりだ。明らかにディラスが出て行ったのを見計らって現れたとしか思えない。
 かつての仲間を呼びつつも数歩後退りする。一般人の経営する喫茶店でドンパチやるつもりは無いのかもしれないが、生憎とそんな楽天的な気分にはなれなかった。
 警戒した真白の意を汲んだのか、美緒は困ったような顔で笑いひらひらと両手を振った。

「何もするつもりは無いよ。ホントホント、知ってるでしょ?あたしはしょうもない嘘、吐かないってさ」
「知らない、興味が無い」
「・・・そうだったねえ」

 肩を竦めた彼女はそれこそ当然のように真白がさっきまで座っていたテーブルの正面に腰掛けた。皮肉にも先程までディラスが腰掛けていた席である。
 ふふ、と記憶より幾分か大人びた美緒は笑った。

「真白はまったく変わってないね。あ、内面の話じゃなくて外見の話ね?そりゃあそうかなあ、だってここへ来るの一番遅かったでしょ?」
「キリトがそう言ってた」
「ああ。今、調律師やってるよね」
「美緒はちょっとだけ――大人になった?年取ったように見える」
「あたしはここへ来てもう3年以上経ってるから」

 ところでさ、と話を打ち切るように大袈裟に赤バングルの嵌められた腕を振る美緒。店員を呼んでいると勘違いしたのか、ウェイトレスの一人が寄って来た。ついでと言わんばかりに美緒がアイスコーヒーを注文する。長居する気満々のようだ。
 ――暇潰しには、なるだろうが。

「あたし達が元いた世界の事、まだ覚えてる?」
「もちろん」
「真白っちはさ、最初に脱落しちゃったからあの後あたし達がどうなったのか知らないよね?」
「・・・知らない。けど、あまり興味無い」
「いや、そこは聞こうよ。あたしの話を。損はしないと思うし、暇でしょ?」

 半ば強引に話を始めた彼女に素直に従う。話を聞く気はあまり無かったのだが、時間潰しになるのならば自分の知らない情報を耳に入れておいていいと思ったのだ。