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「大人しくしていろ、真白」
「うん」
そう言い残してディラスもまた出て行った。1人取り残された真白はとりあえず淹れられた紅茶を一口含む。宿の1階にあるこのカフェだったが、だんだん人もはけてきてさらにひとりぼっち感が増したように思える。
何だか心底退屈だった。あまり暇を実感した事の無い真白だったが、この時ばかりは夕方まで何をすべきか真剣に悩んだ。
「・・・外、出てみようかな」
思えばこの世界へ来てからというもの、1人で外も出歩いた事が無い。必ず誰かが同伴していたからだ。というか、日本とは勝手が違うのでどうしていいのか分からない。元いた場所というのは外を平気で武装した人間が歩いていたりはしなかった。
そうしてもう一つ問題がある。
――土地勘が一切無い事だ。今日来たばかりのこの街を当然真白が把握しているはずもなく、無闇に外を出歩こうものならものの数分で迷ってしまう事だろう。そうなるとディラスに迷惑を掛ける以前に自分自身としてもとっても面倒だ。
それを考えると外へ出るという目論見そのものが的外れな気がしてきて、行く気も失せるというものである。
「・・・部屋、戻ろうかな」
また例の如く昼寝でもしようか、と立ち上がる。
――が、次の『部屋へ向かって歩き出す』という行動は強制的にキャンセルされた。
まったく唐突に肩に置かれた手によって。ぎょっとして息を呑み固まる。一度痛い目に遭っている真白はこの状況が良くないものであるとそう認識したのだ。
「ちょっと、何固まってるの?」
しかし、聞こえてきた声はどこか笑いを含んだような柔和な声だった。しかも驚くべき事に聞き覚えがある。
ゆっくりと首を動かして背後を見る。
「やっほ、真白」
かつてのメンバーの1人、美緒が立って片手を挙げていた。その顔には人懐こい笑みが浮かんでいる。