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暫く討論というか言い合いを続けていた二人だったが、やがて折れたのはディラスだった。ラグのしつこさも異常だが、ディラスの飽き性も目を見張るものがある。心底嫌そうに盛大な溜息を吐いたディラスが退室、残された真白はのろのろと首を動かしてラグを見やった。
「それで、今度は何?まだ何かあるの?」
「冷てぇなあ。本当に何の下心もないぜ。路銀浮かせる為にわざわざ同道するって話だ」
「怪しいな。何を考えているの?」
「知り合いに会うだけだっつの」
そこで不自然な沈黙が室内を支配する。ラグの真意を読み取れない表情も、ディラスがああも怒り狂う理由も、真白にはちっとも分からなかった。
「いやいや、お前等の旅行に横槍入れんのは悪かったさ。けど、俺だってあまり一人でふらふら出歩けねぇんだよ」
「どうして?」
「どうしてでも。ま、物理的な問題だからな。あまり話したい話でもねぇし」
「私に隠し事をするな、とは言わないけれど」
空になったカップを机に置き、彼女にしては珍しく意志の強い瞳でラグを睨み付ける。元は同僚と言えど、馴れ合いのグループではなかった。互いが邪魔になれば平気で蹴落とそうとするし、利益があれば連む。そんな業界で生きて来た。
「私達に厄介事だけは持って来ないで。迷惑だよ」
「厳しいねえ。お前は自分のその発言が相手をどれだけ傷付けてるかなんて、ちっとも考えねぇんだろうな」
「少なくとも、貴方がまったく傷ついていない事だけは分かるから問題無いんじゃない?」
「あーあー、やっぱりお前等苦手だぜ、俺」
「知ってる」
興醒めだと言わんばかりにあからさまに部屋から出て行くラグ。残された真白は、どうしたものかと天井を仰いだ。ラグが起こす不審な行動の後がどれだけ危険なのかは、昔から身を以て知っている。