1.





 仕方が無いので憩いの場、ロビーへ足を向ける。かつての自分だったのならばこんな騒々しい場所を訪れる事など無かっただろうが、《音楽団》に入ってから自分は変わったと自覚している。
 そんな真白の思いとは裏腹に、ロビーには人の影すらなかった。誰もいない。
 途端につまらない気分になって少々乱暴にソファへ腰掛けた。弾力性のあるそれに目を細める。
 そのまま昼寝の体勢へ。部屋へ戻るのも億劫だったし、ここで寝ていれば誰かが来た時に起こしてくれるだろう。寝過ぎ防止になるだろうし。


 ***


「おい、こんな所で寝るな」

 ほとんど真白の目論見通り、肩を揺さ振られてはっと目覚める。疲れの取れ具合から、1時間以上眠っていただろうなと予測。かくして、起きた時目の前にいたのはディラスだった。音楽家は少々呆れたような表情で立っている。

「寝癖がついているぞ。身嗜みぐらいちゃんとしろ」
「誰にも会わないでしょ」
「そういう問題じゃない」

 なおも何か言いたげな顔をしていた音楽家は無言で向かいのソファに腰掛けた。その手にはコーヒーのカップを持っている。真白の目の前にもミルクがたっぷり入ったコーヒーが置いてあった。

「持って来てくれたの?」
「僕が自分の分だけを持って来たらお前は文句を言うだろう」
「そうかもね」

 湯気が上るコーヒーを口に含む。予想していた以上にミルクの味が強い。ブラックは飲めないが、親の敵と言わんばかりにミルク混ぜなくともいいんじゃなかろうか。

「ところでお前に話がある」
「そうらしいね」
「・・・マゼンダから何か聞いたのか?」

 苦々しい顔をしたディラスは少しばかり疲れているようだった。ので、是とも否とも堪えずただ黙ってコーヒーを口に含む。