1.





 ラグと分かれ、いつもの音楽室を訪れた真白はディラスがいないと知りぼんやり廊下を歩いていた。やる事が無いのだ。もう一度ラグと会うのも一つの手だったが、彼は鬱陶しいので一時は顔も合わせたくない。
 そんなこんなで手持ち無沙汰になった《災厄》は何をするでもなく角をふらりと曲がる。

「あ」

 その長く伸びた廊下の先。
 まさに捜していたディラスその人の姿があった。常々浮かべている何かを考えているような何も考えていないような、曖昧として模糊な表情。彼も暇に違い無い。

「ディラス」

 静まり返った廊下だったとは言え、離れた場所に居る人間を呼ぶのはそれなりの努力を要した。真白は人を呼び止めた事がほとんど無いのだから当然だ。
 しかしそれなりに必死の思いで絞り出した声に、ディラスは気付かなかった。
 ――何も考えていない、のではなく珍しく何かを思考しているようだ。
 それに――これは彼女の独断と偏見、及び彼女の現在の心境を加味した上での意見だが、どうにも彼からは近寄りがたい雰囲気を感じる。今は話し掛けないで欲しい、と無言の訴えをされているような。
 追うかどうか考え、結局追わなかった。
 たまには一人の時間も必要である。