2
中庭へ行けば雰囲気と合っていないラグの姿はすぐに見つけられた。その後ろ姿は心なしかしょんぼりしている――ようにも感じられる。本当はこのまま放っておきたいところだが、そうも行かないだろう。
決意した真白は至って平静を装い声を掛けた。
「ラグ」
「・・・おう、真白か。どーしたよ俺には構ってくれねぇんじゃなかったのか?」
「もっと頭を使った発言は出来ないの、ラグ?」
またそーいう事を言う、と大袈裟に悲しんで見せる彼に辟易した。ディラスと話している時のこの程度の暴言は序の口である。彼のオーバーなリアクションはこちらの感性を狂わせてくるので遠慮してもらいたい。
神経質そうに顔をしかめれば「それディラスみたいだぜ」、と苦笑しながらそう言われた。ひどく心外である。
「私が言いたいのは。もっと空気を読んでくれない?あんな所で私達2人が抜けたら、ディラスが可哀相でしょう」
「お前から人を気遣う言葉が出て来る方が驚きだよ、俺は」
「ケーキだって食べかけだったのに」
「2人で美味そうなもん食ってんじゃねーよ」
ああ言えばこう言う、とさらに真白は眉間に皺を寄せた。現代日本にいた頃からそうだったが、彼は切り返しが上手い。コミュニケーション能力の塊のような人間だったのだ。
故に、真白はラグとの会話が少々苦手である。
――気付けば、2人きりで話しているからだ。意識して彼と話しているわけではなく、本当にいつの間にか2人きりで言葉の応酬をしている。
それをディラスが快く思っていない事を真白は真白なりに気付いていた。
ただし――それをコミュニケーション能力が著しく低い真白が気付いているのだから、ラグが気付いていないはずもないのだ。
「どうしてわざわざあのタイミングで話を差し込んで来たの?貴方が私に用事がある事ぐらい、ちゃんと分かっているのに」
執拗に絡んで来る印象のあるラグ。だがその実、本当に用がある時にしか目の前に姿を現さない。だから今回も必ず何か重要な用件があったはずなのだ。
「あんな2人きりでイチャコラしてるところに割り込んだのは悪ィと思ってるよ。お前の言う通り、態とだからな。んで、用件ってのもかなり急ぎだったんだよ。だからそう怒るなって」
肩を竦めた彼はやはり苦笑していた。