1.





 ラグも何か用事があったのかもしれない、と精一杯の良心的見方をして心を静めた真白はそれとなく――早くどこかへ行ってくれという意を込めて問いかける。

「何の用事なのか早く言ってよ」
「おう、そうだった!」

 食堂ショックから立ち直ったのか或いはどうでもいい事だったのか、手を打ったラグが締まりのない顔をこちらに向ける。
 真白という人間に他者の考えている事というのはおよそ分からない。
 が、この時ばかりは激烈に嫌な予感がして思わず息を呑んだ。

「出掛けようぜ、真白。街にでも行こうや」
「嫌よ」

 一刀両断。
 ほぼ間髪を入れず、その申し出を切り捨てる。冗談じゃなかった。どうしてこう、ラグは空気が読めないのだろう。その証拠に普段は冷静で無表情なディラスの顔が引きつり、青筋を立ててラグを睨み付けている。
 やはりそれには気付かず、ラグは陽気にいいだろ、とゴリゴリ自分の意見を押し通そうと躍起になった。

「どうせ今からずっと昼寝だろうが。動かねぇと太るぞ」
「私はもとから太る体質じゃないから気にしないで。今日は外へ行きたい気分じゃないの」
「いやだから――」

 おい、と見かねた保護者が割って入る。相変わらず額に青筋を立てたままだ。

「くだらない言い合いは余所でやってくれ。ラグ、いい加減にしなければ少女誘拐の容疑者として国軍に突き出すぞ」
「辛辣!おーい、今の一言でお前が俺をどういう目で見てるのか分かったからなー。覚悟しとけよ中毒者」
「覚悟でも何でもしてやろう。だからお前の罪状に名誉棄損を足せ」

 大人二人の大人げない様を見ながら内心で嘆息する。どうやら、「後で行く」という真白の無言の主張はラグに届かなかったらしい。ちぐはぐなのは、こちらへ来てからではなく現代日本でもそうだったのだが。
 バラバラである事が一種のステータスだと思っていたが、これはこれで面倒である。
 彼に遠回りな言葉は伝わらない。ならば。

「ラグ、邪魔だから出て行って。ディラスが怖い顔をしているわ」
「俺のせいかよ・・・あーもう、分かったっつの。じゃあな、お幸せに!」

 やってきて何もせず出て行ったラグ。彼の後姿を見、ディラスがぽつりと「奴は何をしに来たんだ」と呟いた。