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そんないざこざがあった三日後。
その日、真白はディラスと共にマゼンダが買って来たケーキを食べていた。レアと言えばレアな一日である。本来ならば今の時間帯は音楽室に二人して引き籠っているはずなのだから。
チョコレートのケーキ、ストレートの紅茶。
まるで漫画の中にでも出てきそうな取り合わせだな、と頭の隅でぼんやり思った。
「真白――あの後、ラグから何か言われなかったか?」
「え?」
前回の一件でディラスから色々と怪しまれているのは薄々気が付いていた。というのも、全ては演技が出来ないラグが悪いのだが、それを主張するのも面倒で結局その件について真白は言及していない。言ったところで変わらないだろうと。
そんな元、同僚の話はさて置き。
「どうしたの、ディラス。そんな事に興味があるの?」
「そうだな。僕は僕なりにお前の身を案じているらしい」
「え」
「奴は女癖が悪いからな」
お前のような子供にまで手は出さないだろうが、とディラスは息を吐く。
正直に言って、アジア系の顔というのは童顔というか、子供に見られやすい。よって、ディラスが真白を子供扱いするのは必然なのだが、真白はというと中身は19の少女と言うには些か怪しい歳である。
いまいち会話が噛み合っていない。事、歳に関して真白は相棒へ抗議した事が無いからだ。子供扱いしたいのならばそうすればいい、とそんな認識。
つまり――真白が気になったのは、彼女自身の扱いではなく、ラグの奇行についてだった。
「女癖、悪いの?ラグ」
「悪い悪い。マゼンダでさえ辟易する程には悪い」
「マゼンダを引かせるぐらい、凄いってこと?」
「あぁ。だから奴と出掛けるのは疲れるんだ」
嫌な事を思い出したのか、ディラスが額に青筋を浮かべている。
そんな彼を放置、真白は思い出す。まだ現代日本にいた頃の『ラグ』を。
女癖が悪いなんて話は一度だって聞いていない気がする。興味が無かったので覚えていないだけかもしれないが、メンバーの誰かが女癖で困っているという話も聞いていない。
それらを加味した上で、相棒を落ち着かせるべく最初の問いに答える。
「何もされてないよ。ただ、周りをウロチョロ鬱陶しいけれど」
「新人に構いたがるのは毎度のことだ。耐えろ。が、耐えられないと言うのならば僕がアルフレッドに相談してもいい」
「何だかディラス、ラグを私に近づけたがらないね」
「それは――」
タイミング悪く、人が入ってきた。ここは食堂なので、密会には適さない場所だったのだ。