2.





 音楽室へ帰る、と言えば何故かラグが着いて来た。何で来てるんだろうと思ったが、それを口にすると大袈裟にショックを受けたふりをして余計に鬱陶しい事になりそうだったので自重。
 そんな予想は出来た真白だったが、ディラスのもとへラグを引き連れてやって来た時の音楽家の反応は予想出来なかった。

「――ラグ・・・」
「ご機嫌斜めか、ディラス・・・」

 眉間に皺を寄せ、心底不機嫌そうに溜息を吐く。放浪者と音楽家はあまり相性が良くないらしかった。人間関係について頓着しない真白にもそれが何となく伝わる。

「何かされなかったか、真白」
「ううん。ラグが阿呆で馬鹿な事しか言わなかった事以外は何も起きなかった」
「辛辣だなお前!」
「うるさいな」

 二人の掛け合いを不審そうな目で見つめるディラス。彼にしてみれば、どうも犬猿の仲っぽかった二人が平気な顔をして仲良く言い合いをしているのが理解出来ないのだ。

「仲が良いな、お前達は」
「そ、そんな事ねぇよ!馬鹿か!」

 ――馬鹿はお前だ。
 真白は心中で舌打ちした。もっと上手く誤魔化せないのか。ディラスに現代日本の話が露呈すると面倒だと言ったのはどこの誰だ。
 あくまで平静を装っている真白とは違い、ラグの目は完全にあらぬ方向を泳いでいる。もっと頑張って欲しいものだ。せめて、ディラスの不審そうな眼差しに気付いてもらいたい。
 仕方なく、何食わぬ顔をした真白が助け船を出す。

「彼、ずっとこの調子なの。何かの病気?」
「なぁ真白、お前、フォローって言葉知ってるか?」

 不審通り越して狂人でも見る様な目をされたのは言うまでも無い。