2.





「顔色がよくないわ、ディラス」

 翌日の昼。いつも通り音楽室に入り浸る真白はそう呟いた。
 いつもの無表情であるディラスだったが、確かに彼の顔色は蒼い。心配にはならないが、何をやらかしてこうなったんだろうな、とは思う。
 ああ、と抑揚の無い声で頷いた音楽家の目が少しだけ遠くを見るように細められた。

「昨日飲み過ぎた」
「会社疲れのサラリーマンみたいな事を言うのね」
「サラリーマン?・・・僕は音楽家だ」
「まだお酒抜けてないの?もう止めてしまえばいいのに」

 帰って部屋で休めば、とそう言ったのだが頑としてディラスはここにいると言って聞かない。

「ディラスって酔うのね」
「いや、大した量では酔わない。だが、昨日は上物の酒もあったし時間もあったからな。少し、無茶をして飲み過ぎたようだ」
「ちょっと考えて飲めばいいのに」

 そうだな、と呟いたディラスが手を止める。いつもならば適度なところで会話を切り上げて音楽の世界に没頭するのだが、今日は昨日の疲れのせいか人の話を無視してヴァイオリンと戯れたりはしないようだ。
 丁度良い。訊きたい事があったのだ。

「ねぇ、ディラス。昨日のあの人・・・」
「ラグの事か?奴がどうした」
「どんな人なの?」

 そう訊いた瞬間のディラスの少しだけ驚いたような顔に、真白はほんの少し首を傾げた。