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 大人達が自主解散した後、基本的には音楽室に入り浸り、各々勝手に楽器を触ったり楽譜を触ったりするはずのディラスは真白を呼び止めた。彼女は暇な時、必ずディラスの周りをうろついているのだが、今回は言わなければならない事がある。
 呼び止められた真白は黙って無表情をこちらへ向けた。

「どうしたの、ディラス?」
「ラグが帰って来る」
「それ、さっきも聞いたわ」
「奴は新人に絡みたがるが、嫌ならば関わらない方が良い」
「え?」

 意味が分からない、と真白が首を傾げる。言った本人であるディラスでさえ、何を伝えたかったのか分からないような言葉だと思ったのだから当然だ。
 暫し考えたディラスはようやく言葉をまとめた。

「奴には放浪癖がある。お前とは恐らく、そりが合わない人間だろう。まともにうてあうな。いつの間にか一緒に旅する事になるのは嫌だろう?」
「何それ恐い」
「以前の僕がそうなったからな・・・十分に気を付けろ、真白」

 苦々しい顔をしたディラスはそれっきり真白に背を向けた。もちろん、小さな少女が後ろを着いて来ているのは分かっている。


 ***


 そうしてヴァイオリンに没頭、楽譜を書くのに没頭したディラスははた、と気付いた。時計の針はすでに午後3時を指している。間違っても午前中ではない。
 真白はというと、最近は昼寝が日課のようで楽譜を眺めていたのかそれを片手に持ったまま目を閉じていた。

「時間にルーズな奴だな、相変わらず」
「・・・どうしたの?」
「起きていたのか、真白」
「今、起きたの」

 ぐぐっ、と背伸びした真白はすでにラグが云々という話は綺麗さっぱり忘れていそうで一抹の不安を覚えた。