2.





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 国内に紛れ込んだ内通者に、口を割らない大罪人、魔女狩りを決行しようとする古株。
 解決していない問題、もとい面倒事は後を絶たない。それを一つでも減らそうと努力する事はもちろん従者である嘉保の仕事だった。それが嫌だとは思わない。
 ――けれど。
 正直、こういった重大な局面に一人で臨みたくはなかった。

「正直、手応えなーい。イケメンは多いけどさーぁ」

 聞こえて来る女の声。それがまったく聞き覚えのないものだと気付いた嘉保は瞬時の判断で廊下の角に身を隠した。幸い、この位置からなら相手から自分の姿は視認出来ないだろう。
 それはまったくの偶然で、同時に不幸でもあったのだが嘉保は果敢にも話に耳を澄まし、そっと聞き覚えのない声の主を見やる。
 黒い髪を肩口で切り揃えた特徴的な外見。どことなく奥ゆかしい体形と漆黒の瞳が東瑛辺りの出身者である事を物語っている。ただし、こんな人物は王宮内で見掛けた事が無いのでどう良心的な解釈をしても部外者だ。
 こんな時期に部外者を出入りさせたりはしない。ましてや、ここは皇居のすぐ隣。敷居を跨いでしまえば国内で最も尊い敷地内に入る事となる。
 だが――まだ、この見覚えもない部外者の女はまだいい。いや、全然良くないがもう一つ同時進行している案件と比べれば、何の事は無い程度にはいい。

「イケメン、じゃないわよ。何であんたがここをウロついてるわけ?馬鹿じゃないの?」

 刺々しい物言い。この声には聞き覚えがあったし、その姿は見覚えがあった。
 忘れるはずもない。

「すぐ隣は皇居よ?見つかったら首が飛ぶわ」
「面白い事言うなー。私なんて見つかったら即死刑だって!」
「笑い事じゃない・・・!!」

 ――エリザ=ノープル。
 蘇芳の側室であり、その中でも古参に位置する、それなりに権力を持った令嬢である。それが、知らない女と会話している。
 心臓が早鐘を打つ。蘇芳はドルチェにご執心だし、彼女が裏切り者であったとしても心を痛めたりはしないだろう。けれど、エリザは他国から――言い方は悪いが、政略結婚の一つとして娶った女性である。本人達間でのいざこざは無くとも、下手すれば外交問題に発展するのは間違い無い。