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「――何の話をしている」
妹への小言は終わったのか、相も変わらず何を考えているのか分からないぼんやりした顔の蘇芳がぬっ、と顔を出した。たちまち畏まる久遠と微笑む鳴凛。何が何だか分からないドルチェはただ顔を引き攣らせて背筋を伸ばした。
そんな妻の顔を一瞥した蘇芳は部下2人を指さす。
「鳴凛と久遠だ」
「あっはい」
「護衛になる」
「・・・えぇっと、誰の?」
色々必要な情報が抜け落ちている会話。何を言っているんだ、と言わんばかりに大兄が小首を傾げた。
「お前のだ、ドルチェ」
「護衛が必要な程、大変な事になっているのかな?」
「いや――どうやら、内部にも敵がいるらしいな。用心の為だ。だが、お前が嫌がるのなら別の対策を考える」
「いや、滅相も無いです、はい!」
「・・・そうか」
変な間。それもそのはず、ドルチェに付ける2人は確かに護衛の意味もあるだろうが、実際は上のお偉い方に難癖を付けられない為の軛でもある。ようは監視だ。こうしていれば、ドルチェの無実が証明出来る――やり方が騙しているようなのはご愛敬だ。
一瞬だけ蘇芳の顔が曇った気がしたものの、それでも彼はいつもの状態を取り戻し、高圧的に言い放つ。
「外へ出る時は連れて歩け。どちらでもいい」
「分かった。ところで、訊きたい事があるんだけど――」
「・・・何だ?」
――気付かれたか?さすがに馬鹿なドルチェも闘将なんて物騒極まりない護衛を付けられれば、裏の意図に気付くだろう。
しかし彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、鳴凛を指さした。
「もしかして、凛ちゃんの関係者じゃないかな!?だって顔似てるし、名前も似てるし!!」
「お前には絶望したぞ、ドルチェ」
「えっ何で!?」
疲れ切った溜息。さすがに今回ばかりは兄に同情せざるをえなかった。