2.





 本当は反対だったが、姉相手に強くは言えなかった三男・松葉。仕方なく紫苑を引っ付けたまま、大兄である蘇芳の元へ戻って来た。
 案の定、紫苑の出現は望んでいなかったらしい蘇芳はチラチラと紫苑を見ている。何故いるのだろうか、とでも思っているのだろう。す、と松葉は目を逸らした。

「ご機嫌よう、紫苑お嬢様。そちらのお方が奥様ですか?」

 一方で、兄の方も1人では無かった。先程まではいなかった2人が増えている。もちろん、松葉にとっては見知った顔だがドルチェは初対面だろう。蘇芳のやや後ろに立つツインお団子ヘアーの彼女を見ている。
 そんな彼女――鳴凛に対し、紫苑が軽く微笑んだ。

「あら、そういう事でしたのね、お兄様」
「察しが良いな、紫苑」
「ええ」

 だが、とそこで残念そうに少しばかり蘇芳が声を落とした。

「出来れば部屋で待っていて欲しかったな」
「お兄様ばかりドルチェを好きなように扱ってズルイでしょう?」
「そういう話ではないのだが」

 妹に対する小言が始まったのを察したのか、女――鳴凛の方がドルチェに興味を示し始めた。松葉はそっと兄と姉の言い合いから離れ、そちらの輪へ加わる。

「どうも、ドルチェ様。わたくし、鳴凛と申しますわ」
「あ、はい」
「魔道士にして蘇芳様付きの闘将です。そして――」

 鳴凛の視線が事の成り行きをぼんやり見ていた青年――久遠の方へ移る。それに気付いたのか、彼はぼんやりした顔をこちらへ向けた。

「あれが久遠。わたくしの後輩に当たりますが、もちろん彼も闘将ですよ」
「よろしくお願いしまーす」

 どことなくやる気を欠いてはいるが、主人に当たる蘇芳の嫁に少なからず興味を持っているのは明白だった。その証拠に、話を振られたからか、ふらふらと会話の輪に加わる。

「松葉くん。何で私は呼ばれたんだろ?」
「そりゃ・・・今から兄貴が説明するだろ・・・」
「奥様、珍しい髪色してますわね」
「見ない色っすよねー」

 キャッキャと盛り上がる蘇芳付きの闘将達。対応に困ったドルチェが目尻を下げて助けを求めている――もちろん、見えぬふりをしたが。