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絶対零度の笑みにより、会議が当初の緊張感を取り戻す。怒りのあまり笑いだしたのだ、と周りは解釈しているようだったが実弟である松葉はそうは思わなかった。あれは、本当に面白いと思って笑っているのだと瞬時に悟る。
貴方が言う事ももっともでしょう、と蘇芳が言葉を紡ぐ。異様な雰囲気の会議室にはその声が怖いぐらいに響き渡った。
「ですが、彼女を疑うより、他を疑う方が時間の使い方としては有効でしょうから気になさらない方が良い」
「それは・・・皇子よ、彼女は信用に足る、と?」
「どうでしょうね。人間的には信用出来ないかもしれませんね」
ドルチェはこの件に関わりは無いでしょうから、とそう言ってやはり蘇芳は嗤った。
それでは、と別の男が話を遮る。この場にいる皇族を除けば彼は一番若い。そんな彼は至って冷静に口を開く。
「内通者の件に関しましては、今から捜すという方針でよろしいですね?他に心当たりは無いのでしょう?」
一同が重々しく頷く。結局、この会議は国に紛れ込んだ鼠がドルチェでない事を確認する為だけに開かれたかのようだ。時間の無駄だとは思わないが、外から来た魔女がどれだけ信用されていないのかがよく分かる事態である。
ガタガタと席を立つ国の重鎮達。波が引いていくかのように人間がいなくなって、やがて室内には松葉と蘇芳だけが取り残された。
「疑われてたな、ドルチェ。まあ、仕方ないけど」
「・・・そうだな」
何かを思案するような顔をしていた蘇芳はふと、何かを思いついたのか呟いた。
「人を、付けるか」
「凛凛だったっけ?あいつ付けてるだろ、今も。つか、召喚獣の件はドルチェ、全部アリバイあるんだよな。もしかして兄貴、それを見越して部屋に呼んでた?」
「いいや。あれはただの偶然だ」
「エリザとはあまり関わりねぇのに、ドルチェにはよく構うよな、兄貴」
「それは俺の勝手だろう。手が空いているのならば、ドルチェを呼んで来てくれ。俺は別の用がある」
「ここにか?」
「ああ」
それだけ指示して蘇芳は席を立った。一方の松葉は訳も分からず、とりあえず兄の奥方を呼ぶ為に踵を返す。こうやって兄に顎で使われるのにももう慣れたものだ。