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「ハァ!?お、おまっ・・・何しに来たんだよ!!」
愕然とその光景を見つめながら問う。常に冷静な嘉保もこの事態には驚きを隠せないらしく、動揺と疑問を綯い交ぜにしたような苦笑いを浮かべている。
そしてその動揺の視線に気付いたらしいドルチェが若干申し訳無さそうな顔をした。彼女は空気が読めるタイプだった。
「えっと・・・小説のネタ集め・・・。あ、旦那様には内密にお願いしますぜ・・・」
「お前驚く程図々しいな。たぶん兄貴は気付いてると思うけど、まぁ・・・面倒な事になるのも嫌だし黙っておくよ・・・俺はな」
「俺に振らないでください。というか、蘇芳様にはお話しますよ。ドルチェ様もご自重なさってくだい」
空気読めないよな嘉保くんって、とドルチェが呟いた。本人は独り言のつもりだろうが、ここは地下牢。反響した声はしっかりと聞こえている。
しかも笑い声が聞こえると思えば、牢のジャレッドが肩を揺らして笑っていた。緊張感とかその他諸々の雰囲気がブチ壊しである。
「私もこの人と話していい?」
「・・・いいけど、あまり変な事訊くなよ。恥ずかしいから」
「松葉くんは私を何だと思ってるんだろう・・・」
今度は私が話す、と何故かジャレッドに宣言。彼は彼でドルチェに興味があるのか、どこか人を馬鹿にしたような笑みを引っ込めて彼女を見る。基本性質が魔道士、という点で似通っている二人だ。何か通じ合うものでもあるのかもしれない。
メモ帳を構えたドルチェはじろじろとジャレッドを観察している。さすがにジャレッドの方も視線が嫌になったのか、あからさまに顔をしかめた。
「ジロジロ見てんじゃねぇよ」
「フードの下ってそうなってたんだ。ふーん・・・どこかで会った事、ある?見た事あるような気がするんだけどなぁ」
「・・・まあ、俺は指名手配犯だからな。顔見てたっておかしくはねぇだろ」
いや、生身で見た事ある気がするんだよ、となおも悩んでいたドルチェだったが、気を取り直したのかメモ帳を開く。