2.





「松葉様」

 不意に囁くように嘉保から声を掛けられた。どうやら、ジャレッドには聞かせたくない話らしい。何だ、と小さな声で返す。

「蘇芳様が、内通者の有無を問え、と・・・」
「裏切り者ぉ?ンだよそれ・・・俺が?専門外だっつの」
「いえ、東瑛の内情が漏れすぎている気がする、との事で」

 分かったよ、と頷きニヤニヤと嗤う指名手配犯に視線を移す。
 一瞬だけ何と問い掛けるか躊躇した後、結局はストレートに訊く事にした。遠回しなやり方は好まないし、何より鎌かけにジャレッドが気付かないはずがない。

「まさか、うちに内通者とかいたり――しないよな?」
「どうだろうなぁ。あー、でも、俺と戦ったあの女。あいつ怪しくね?外から来たんだろ。信用ならねぇよなぁあ」
「馬鹿な事言ってんなよ」

 内通者がいるらしい事は雰囲気で分かる。ドルチェに火の粉が飛んだのも、それがただの冗談だとよく分かる。やはりここは、兄に代わった方がいいのかもしれない。自分には荷が重すぎる。
 ふ、と嘉保が何かに気付いたように振り返った。

「どうした?」
「・・・足音が聞こえます。誰か、降りて来たようです」
「誰も来る予定は無いぜ」

 怪訝そうな顔をした嘉保が確かめてくる、と身体を反転させた。
 ――が、それは無駄に終わる。

「あ!まだいた。よかった!」
「――ドルチェ様!?」

 最近、すっかり東瑛帝国に馴染んできた大兄の奥方であり魔女であるドルチェ。東には無い色である金色の髪を揺らし、それでいて着物をまとった姿は不自然を通りこしていっそ自然的だった。
 そんな彼女は片手にメモ帳を持っている。キラキラした子供みたいな瞳を見て、嫌な予感を覚えた。