1.





「いやぁ、表に人が一杯いたからさ。荷物持ってるし群れを迂回して行ったら人がいねぇのなんのって!誰かに手伝ってもらうにも誰もいないし、助かったぜ」
「はぁ・・・」
「あんた、見ない顔だな。名前は?」
「ドルチェ」
「外から来たのか!いや、遠路遙々ご苦労様!」

 ――チャラい。
 彼、とっても話し方がチャラチャラしている。悪い人ではないのだろうが、とにかく宮中でかなり異質な存在というか相応しくないというか。その態度からしてとても給仕の連中に見えないのが一層ドルチェの不安を煽る。
 しかも彼、私の事をどう思っているのだろうか。掠めた疑問。何だか、昨日聞いた話から繋がるものがありそうな、無さそうな――

「ドルチェが住んでた所ってどんなところ?」
「え?あ、ああ・・・ううん、女ばっかりいたかな。小さな家で3人暮らししてたよ」
「おお!アットホームな感じが良いな!うちは見ての通り大家族だからなぁ。3人暮らしなんざしたことないぜ」

 羨ましい、とまでは言わなかったが興味深そうな顔をしている。そりゃあ、こんな皇居に住んでいれば少人数で暮らすのにも興味が湧くと言うものだ。

「――あ。そうだ、ちょっと兄上殿の部屋寄っていい?」
「え、ちょ、兄上って――」
「そこの部屋だから。え?まさか会った事無い?んなわけないよな」

 見覚えのあり過ぎる部屋。迷わずそこへ向かう彼はすでに目標しか見ていないのか、後ろで百面相するドルチェに気付かない。
 こんこん、と戸を叩く。

「兄上ー。ただいま帰りましたよ、っと」

 ややあってその戸があっさり開いた。やはり彼は――弟が帰ってくる事など、意にも介していないらしい。ほとんどの者が出払っているというのに。