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 唐突にやる事が無くなったドルチェはお決まりのコースとして図書室行きを決定した。実はあの場所が最も安全な場所だったりする。まず、エリザ=ノープルと出会わない。蘇芳がセットで付いている時を除けば、彼女自身の個人的な用事で図書室へ訪れる事は無いのだ。
 さらに、それなりの頻度で不知火松葉と出会う事が出来る。極稀にだがそれに紫苑がついている事もあるので、開けるまで分からないびっくり箱のような楽しさがあるのだ。もちろん、ドルチェ自身が本好きというのも1つの理由である。
 今日は一日、誰もが忙しそうなので邪魔にならないようにと魔女は戸を引いて廊下へ一歩目を踏み出す――

「んぎゃ!?」
「うおっ!?」

 途端、何者かと正面衝突した。何てタイミングだ。しかも、相手の方がかなり大柄だったらしく、呆気なくもドルチェは吹き飛ばされて再び自室へ押し戻される事となった。

「うわ!ごめんな、人が出て来るとは思わなかったんだ!大丈夫か?」

 若い男の声と同時に腕を引っ張られてほぼ強制的に立ち上がる。そこで初めて男の姿をまじまじと見た。
 茶色の短髪に高い背、良い体格。首下には金色のチェーンを掛けている。そして、散乱した何だかよく分からない荷物。ぶつかった時に散らばったのは一目瞭然だった。

「うわ、ごめん・・・。拾うの手伝うよ」

 何だか小汚い格好をしているものの、荷物の整理を手伝う。それにしても両手に抱えていたとは思えない量の荷物だ。一体これをどこへ運ぼうと言うのか――

「悪ぃな。あ、悪いついでにちょっとだけ荷物運ぶの手伝ってくれないか?さすがに両手だけじゃ不安定過ぎてね」
「はぁ、いいけど・・・」

 ――あれ、デジャブ!?
 猛烈な既視感を覚えたと同時、蘇芳と初めて出会った時の状況がフラッシュバックする。確かこれと似たような状況だったような。シチュエーションは若干違うが、話の大筋はまったく同じだ。

「おーい、本当に大丈夫か?頭とか打ったんじゃないよな?」
「あ・・・うん、ダイジョウブ・・・」

 あれこれ、着いて行っちゃいけないんじゃないだろうか。脳裏にそんな不安が掠めたものの、最早後の祭りである。