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「失礼致します、朝餉をお持ち致しました」
そう言って現れた凛凛はやや忙しそうだった。そういえば、先程からずっと外が慌ただしい。人の行き交う音が室内にまで届いていた。
ドルチェの部屋へ訪れた凛凛はそこで初めて休息を得たらしく、ほっと息を吐く。
「忙しいの?」
「ええ。実は――蘇芳様からお聞きになっているかもしれませんが、弟君が帰って来られるのです。昨日、いきなりの文によって知らされたのですが・・・」
「そうなんだ。どんな人?」
そうですね、と悩むように凛凛は一時口を閉ざす。そんなに形容し難い人間性を持つのだろうか、次男殿は。
「えぇっと・・・陽気なお方だと思いますよ。我々、使用人にも気さくに話し掛けて来られます。皇族としてのカリスマ性だけならば蘇芳様にも並ぶお方やもしれませんね」
「あ、凄い人なんだね」
「はい。ですが――その、王にはあまり向かないお方だと思いますよ。何と言うか、蘇芳様と違って雑なところがありますから」
凛凛の話ではいまいち人物像が浮かんで来なかった。そもそも、カリスマ性というのが理解出来ない。蘇芳の放つような『人を惹き付ける力』がそうだとでも言うのだろうか。それと同じものを持っている人物なのに、王には向かないとは如何に。
「旅に出てた、って言うけど・・・つまり出張って事かな?」
「ああ、いえ。あの方は一人旅をなさるのが趣味なのです。必死に蘇芳様がお止めしたのですが、いつの間にか国を出ていたようで」
「あっ・・・自由人なんだ・・・」
どうして蘇芳の正室になったのか。それはまだ分からない。分からないが、もしかすると自分は次男の方とならば相性は良かったのではないだろうか。ふと、そんな憶測が脳裏を掠めた。
「では、ドルチェ様。失礼致します」
「ああ、忙しいところ引き留めてごめんね。がんばって」
「有り難う御座います」
綺麗に一礼した凛凛は部屋から出て行った。きっと今日一日は忙しいのだろう。