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説明を聞いたノーラ姫はとくに危機感を覚えた様子も無くただ「そっか」とだけ言った。城――否、彼女にとっては自宅であるこの地で反乱が起きようとしているのにどこまでも呑気な御仁である。
そんな彼女の態度にはさしものエルドレッドも呆れた顔を隠せない。当然である。
「さて、鍵の話だったね。こっちだよ、おいで、ライアン」
「あ、はい」
素直について行こうとしたところでエルドが非難じみた声を上げた。顔にはありありと不機嫌だと書かれている。
「待て、どうしてライアンだけなんだ。俺も同行を許可してもらいたい!」
「え、勝手に着いてくればいいでしょ」
「もう何でもいいから早くしてください、姫さん」
二人の対立があまりにも幼稚過ぎてまともに解決策を考えてやる事すら憚られる。ノーラ姫は歳が歳だし子供らしくていいのかもしれないが、エルドは立派な大人だ。
言った通り姫君は玉座の裏に回り、壁紙の一カ所を爪先で剥がそうと躍起になる――
「あー、代わりましょうか?」
「ごめんごめん、お願いするよ!」
彼女の非力な指の力では壁紙を剥がす事が出来なかった。そんなに強い粘着力なのかと疑問に思ったが何の事は無い、あっさり剥げた。勢いよく剥ぎすぎて壁紙がびりびりになったが。もうこれは修復不可能だろう。
変な汗を掻きつつ、壁紙の話題に触れないよう現れた金庫を前にノーラ姫へ道を譲る。
ナンバー式のそれだったが、ノーラ姫はあっさりとダイヤルを回し、すぐに鍵を開けた。その中から鍵束を取り出す。
「ライアン、枷の番号は何だい?」
「番号?えぇっと・・・」
「枷番号は首輪に付いているんだから、ライアンじゃ見えないと思うぞ」
事の成り行きを見守っていたエルドが口を挟んだ。そっか、とだけ言ったノーラ姫に屈むよう指示される。暫くライアンの周囲をうろうろしていた彼女は一つ頷くと鍵束の中から一つだけ鍵を取り出した。
「248――これだよ、手を出して」
「はい」
程なくしてガチャリ、という軽い音と共に腕の枷が外れた。連動するように首、足の枷も外れる。さすがは魔法道具だ。
「お、おお・・・腕が軽いぜ・・・!」
「それはよかった!さ、早くここから出よう。この残りの鍵は君にあげるから」
鍵束を無造作にエルドレッドへ投げ渡したノーラ姫に腕を引かれる。早くこの部屋から出よう、という彼女の心境の現れなのだろう。
「ちょっと待ってくれないか、お姫様。君はこれからどうするんだ?」
「私?そうだなぁ・・・私も、参戦しようかな!こんな事しちゃった手前、私も反逆罪とか言って首を刎ねられるかもしれないからね」
「あ・・・」
そこまでは考えていなかったらしいエルドの顔が曇った。基本はお人好しなのだろう。ややあって彼は「分かった」、と頷いた。本当は彼女を参戦させるのなど反対だが、彼女がやらかした行為は立派な「反逆罪」。
そうなると国軍に捕まった後は斬首刑と相場が決まっている。そうなるぐらいならば、彼女を味方に引き入れる方が何倍もマシだ。
「さて、行きますか、姫さん。まずは城から出ましょう」
「分かったよ」
今度は逆。どうしてもリーチと筋力の差で男2人の走る速度について行けない姫君を小脇に抱える。枷が着いていた時は出来なかったアクションだ。