4.





 警戒するエルドの要望にライアンは応えなかった。さり気なくノーラ姫に怪我が無いか確認。彼女はぴんぴんしている。
 部屋の惨状を見た第四王女はへらり、と締まりのない笑みを浮かべた。まるで何が起きたかなど気にしていないように見える。彼女に唯一優しく接していたハロルド王子が倒れていても何のそのだ。

「楽しそうな事をしているね」
「・・・姫さん、その――」
「兵士の格好なんかして、バレバレだよ」

 その言葉はエルドレッドへ向けられたものだった。剣を構えたままの彼はそれを下ろさず器用に肩を竦めてみせる。反省の色は無いし、むしろノーラ姫への警戒が強まったように感じる。

「鍵を探しているんでしょう?教えてあげるから今ここで何をやっているのか、教えてくれないかな?」
「いいんですか、姫さん」
「え?君はその枷を付けたまま一生を終えるの?」

 ――そんな事はあり得ない、断じて。
 動揺したのが顔に出たのか姫君は愉快そうに微笑んだ。この惨状を目の当たりにしてもこの上機嫌。城で起きる事件に興味津々、と言ったところか。

「君は何が目的なんだ?王族なんだろう、ノーラ姫様」
「そうだよ、私は王族だね。けれど、それが何だっていうのかな?友達が楽しそうな事をしているから詳細を求めているだけなのだけれど」
「話す必要性を感じない。気になるのなら、この場にいて最後まで見届ければいいさ」
「何が起こるか分からないのにそんな無茶な事は出来ないよ」

 ここで双方が黙り込む。穏やかな口調とは裏腹に、瞳がまったく穏やかではない。蛇とマングースのような対決だ。
 脳筋なライアンはその口論に口を挟む余地が無かった。彼は感情論を語る以外の術を持たないし、それをあっさり一蹴されてしまう事も感覚的に分かっていたのだ。

「言っておくけれど、枷の鍵は玉座の裏にある壁紙を剥がした金庫の中だよ。パスワード付きさ」

 この一言によって勝敗は決した。はっとした表情のエルドが次の瞬間には非常に悔しそうな顔をし、諦めたように溜息を吐く。

「・・・分かった、説明しよう。が、金庫の中身を取り出した後から君は用無しだ。その後の処遇は期待しない方がいいと思うぞ」
「私にはライアンがいるから大丈夫だよ」

 謎の期待を掛けられている。止めてほしいのだが。