4.





 しかしそう簡単に落とせれば問題は無い。
 ここで最大のネックだった王族の1人――第一王子、ハロルド=アクランドが出張ってきた。

「な、何をしている貴様等!?」

 エルドレッドの鋭い瞳がハロルドを写す。つられてライアンもそちらを見やれば多少震えてはいるものの、戦意は感じられる第一王子の姿があった。ただし士気が回復する様子は無い。むしろ不安要素が増えたのが兵士達は顔を曇らせるばかりだ。
 ――が、ここで困ったのはライアンである。枷がある以上、一つの例外もなく王族に触れる事すら出来ないだろう。それを知ってか、奴隷に対しては急に強気になる兵士。実に反吐が出る。

「彼は俺に任せてくれ。君を危険に晒すわけにはいかないからな!」
「兵士の群れに突っ込ませておいて今更それかよ」
「そのくらいで怪我をする程、君達獣人は弱くないじゃないか」
「まったくだぜ」

 ふ、と嗤ったエルドがすぐさま踵を返す。一応は刀剣を握っている王子の顔がこれでもかと引き攣った。自分が狙われている事には気付いているらしい。
 ――が、ぬくぬく温室育ちの王子が今まで世界を旅してきたエルドレッドに敵う可能性など万が一にもあり得なかった。
 慌てて周りの兵士達が止めに入ろうとするので、ライアンも参戦。ようは王族に手を出さなければいい。

「枷の思わぬ欠点だな。奴隷ではない協力者がいれば、こんなもの、何の価値も無いのか。所詮は魔法道具だ。使い手を――選ぶ」

 どこか自嘲気味にそう言ったエルドレッドがのろのろと振り下ろされた王子の剣をあっさり弾く。弾かれた刀身は一度跳ね上がり、そしてハロルドの手からすっぽ抜けて床に突き刺さった。
 それを見て王子が声を上げるよりも速く、エルドの持つ剣の柄が正確に王子の眉間を思い切り打つ。がつん、という音と共に王室は当初の静寂を取り戻した。