4.





 唐突な侵入者に兵士達の目が一斉にこちらを向く。そう人数は多くないが、もれなく全員武装済み。城内でもそれなりの実力を持つ近衛兵達は現在王のいない玉座を護っているようだった。

「貴様、奴隷などこの部屋に入れるな!」

 その中の1人が憤慨したように叫んだ。天井が高い部屋なのでその大声もすぐに吸収されて消える。エルドが部外者である事には気付いていないらしかった。
 その言葉に応えず、エルドレッドはただ一言ライアンに囁いた。

「兵士達を片付けるぞ」
「おう、了解」

 申し合わせたわけではないが、それでも息ピッタリに2人は動いた。ライアンは右から、エルドは左から。ライアンの戦闘は素手なのだが、エルドは兵士が持っていた剣を得物として戦うらしい。
 彼がそれをあっさり抜き放ったお陰で場がどよめいた。
 その動揺に構うこと無く、手近にいた兵士の1人を右拳で殴る。ごきっ、という痛々しい音と共に床に伏せて動かなくなった。それを見ていた兵士が驚きに声を上げ、標的と言わんばかりに剣先をライアンへ向ける。
 右側から斬り掛かって来た兵士の剣の腹に手刀をくらわせた。あっさりへし折れた切っ先が高そうな絨毯を貫いて床に刺さる。

「や、奴は獣人だ!気を付けろ――」

 意味の分からない指示を出す男に足払いを掛けた。それだけで変な方向に曲がる関節。ただの人間など脆弱だ。それにしたって近衛兵を名乗るにはあまりにもお粗末過ぎやしないだろうか。
 もうあと1人2人殴り倒したところで自分の周りに敵がいなくなった事に気付く。
 ただし全員を倒してしまったわけではない。ただ、白兵戦では獣人に勝てないと悟ったらしい兵士達が遠巻きに様子を見るようになっただけだ。
 ただの人間であるエルドレッドはどうなっただろうか――
 どうにも相手が完全に止まってしまったのでそちらの方に目をやる。
 が、その心配は杞憂だったらしい。すでに左側の雑兵を処理してしまった彼はこちらの援護に回ろうと身を翻していた。

「ライアン、挟もうか。もう勝ちは確定した」
「おう、そっちから回れ」

 退路を失った兵士達が絶望じみた悲鳴を上げた。