3.





 再び廊下へ出る。今度はエルドが先頭で。この図だと傍目見れば兵士が奴隷をどこかへ連れて行っているという自然な構図になるはずだ。
 黙って何食わぬ顔で後に続く。
 それにしても彼は随分城内を歩き慣れているようだった。ライアンはノーラ姫の呼び出しに応じてみたり荷物を運ばされたりと城内を行ったり来たりしているので当然だが、エルドがこうもすいすい進むと違和感を覚える。
 不意に窓の外を見る。
 外で村人達が何やら門番の兵士と話し込んでいた。
 ――言うまでも無く囮である。さすがの暴君王でも常に農業に精を出している村人を意味も無く無下に扱えないのだ。これが奴隷だったならば今頃首が飛んでいるだろうが。

「・・・おい、どこへ向かってる?」
「王室」

 小さく問い掛ければ同じ声量で短く返ってきた。しかしその答えにはライアンも瞠目する。
 正気か――そう問おうとしたところで前からやって来る足音に気付き、自粛。
 程なくして角を曲がり二人組が現れた。

「あれ、ライアンじゃないか」

 ほんの少しだけ笑顔に驚きを浮かべ、手を振る。ノーラ姫は今日も元気だった。笑顔がひどく眩しい。後ろめたい事をしているから、余計に。
 そんなライアンの気も知らず、のこのこと寄って来た彼女の背後には渋い顔をした兵士が控えていた。何か用事だったのだろうか。

「用事かな、ライアン?」
「・・・はい。ちょっと急用なんですよ」
「ふぅん、そうなんだ。何でもいいけど、あまり長引かせないでよ、ね?」

 視線はライアンを率いている――ように見える兵士の扮装をしたエルドレッドに注がれていた。それはつまり、兵士に対する命令である。彼女が誰かに何かを命じているところなどあまり見た事が無い。
 それよりも、エルドと一度会っているノーラ姫がいつ彼に気付くかと気が気じゃなかった。

「ひ、姫様。姉姫様がお待ちですが・・・」
「あぁ、分かっているよ。それじゃあね、ライアン。また後で」

 優雅に――しかしどこか仰々しく、皮肉を孕んだように美しく礼をしてノーラ姫が通り過ぎる。そのあまりにもあっさりした態度にライアンは眉根を寄せた。

「エルドに気付かねぇのか・・・?」
「好都合だ。行くぞ」