3.





「おら、この部屋だ」

 渋る兵士を中へ押しやる――と、ほぼ強制的に室内へ放り込まれた兵士の横合いから何者かが飛び出して来た。信じられない速さで兵士を押さえつけ、首の後ろを思い切り殴る。目にも留まらぬ早業だった。

「やぁ、ライアン。ご苦労だったな」
「よくもこんな部屋でずっと過ごせたもんだ」
「それは奴隷小屋を棚に上げた上で言ってるのかい?」

 倉庫も同然の部屋。ぐったりと動かない兵士を尻目にエルドレッドは悪戯っぽく笑った。悪びれた様子は無い。
 ライアンの役目はエルドが待ち伏せるこの部屋まで誰でも良いから城内にいる兵士の誰かを誘導する事だった。見事成功したので提案者であるエルドレッドはご機嫌である。

「さて、じゃあ俺は早速兵士ごっこと洒落込もうか」
「誰かに見破られたらどーするんだよそれ」
「大丈夫だ。王族は兵士の顔なんていちいち覚えちゃいないさ。一人減っても、或いは増えたって気付かないだろう」

 手慣れたように兵士の軽装をはぎ取り、服の上から着込む。その制服がどういう構造になっているのか分からないライアンにとってみればそれは非常に器用な手つきだった。というか――

「もしかしてお前、昔は近衛兵か何かだったのかよ」
「さぁて、どうだろうな。ま、その件については今回の件とまるで関係無いだろうから黙秘するとしようか」

 さて行くぞ、と支度を終えたエルドが意気揚々と廊下を指さす。先頭切って敵地に乗り込む程度にエルドレッドは乗り気だった。