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農民に奴隷、それらを集めたエルドレッドは一段高い所へ上ると唐突に熱弁を振るい始めた。
「聞いてくれ!今ここに君達を集めたのは他でもない、この国が如何におかしいのかを説明する為だ」
――打ち首を免れないような事を大声で喚きだした。
さすがの農民達も仰天したのか、怯え切った表情であたりを見回す。が、静かなもので人っ子一人いない。
「そうやって君達が王族を恐れている事そのものが、おかしい。何故、同じ人間なのに身分差があるんだ。あったとして、どうしてこうも決定的に違わなければならない」
演説者の気分を味わっているのか、次第にエルドはヒートアップしていく。その熱は止まる事を知らず、余計に暑苦しくなっていった。
「今こそ、王族を打ち倒す時だ!我々が怯えて毎日を過ごすのは、良いことじゃないだろう?自由に生きたいとは思わないのか?奴隷なんてあっちゃいけないものなんだよ、本来」
見事なカリスマ性。それはライアンにも何となく理解できた。一人、また一人とエルドレッドの言葉に同意を示す。虐げられてきたのは間違えようもない事実だからか、背中を押された一般人達の目に迷いは無かった。
それをどこか客観的に眺める。エルドが説く『保護枠』の中に入っているはずのライアンだったが、それがどうにも自分の事だと思えなかったのだ。
「ライアン!」
「・・・あ?」
「俺には君の力が必要――いや、君の力は今から俺達が成す全ての事象に必要不可欠なんだ。協力してくれないか?」
万人受けする笑顔を向けられる。
集めって随分な人数になっていたからか、増長が増長を呼び辺りは異様な熱気に包まれていた。今までの不満を良い方向へ昇華させたのだろう。
「何考えてやがる、あんた」
「俺が望むのはただ一つ。人間の平等だ。この国は身分差の象徴のような有様だが、きっと俺が変えてみせる」
「・・・俺はこの国に長居するつもりはねぇよ」
――もし、この枷が取れたのならば。
まずは故郷へ帰れなければならないだろう。それに、裏切った一人はともかく、もう一人の仲間の方も捜さなければならない。この国に留まる理由など何一つ無かった。
その意図を読み取ったのか、或いは奴隷解放に成功すれば満足なのか、エルドは構わないと爽やかな笑みを浮かべた。
「俺の目標は奴隷の解放だからな!それを成した後、君が外の世界へ行きたいと言うんだったらそうすればいいさ。何せ、自由だからな」
一瞬だけ迷いの色を瞳に浮かべたライアンは――ややあって、頷いた。協力しよう、と。