2.





「無理言うなよ、俺等にはこの、枷があるんだぜ」

 不意に後ろからそんな声が聞こえた。通路に入って数歩進んだライアンは我に返る。そうだ、この枷はマジックアイテム。まさか奴隷が外へ出て行ったら作動して首と胴が離れ離れになるなんて事もあり得る。
 魔法には抗えない獣人の彼も足を止めた。こんな、何が始めるのか分からない状況で命を落とすなんて冗談じゃ無い。
 一斉に奴隷達の視線がエルドレッドに集まった。
 ――そんな中、一際異彩を放つエルドは首を横に振る。

「国内から出なければ平気だ。さ、早く。見回りの兵に見つかれば、枷以前の問題で殺されるぞ」
「よく知ってんな、お前」
「あぁ、知ってるぞ。俺も昔は城で働いてた近衛兵だからな!」

 とんでもない爆弾発言をかました彼は気を取り直したように城内に残る平民達を誘導する。それは確かに手慣れたように見えるし、何より手際が良い。
 我に返ったライアンは引き返すか否か一瞬だけ迷ったものの、やがて素直にエルドに従った。ただし、誘導されるがままにゾロゾロと群れを成して城からの大脱走の列に加わったわけではない。
 黙ってエルドレッドが誘導を終えるまでその傍で待っていた。
 やがて、人がいなくなったところでエルドが苦笑する。

「何だか見張られてるみたいで嫌なんだが」
「見張ってんだよ。てめぇは怪しすぎる」
「そう言われても仕方ないが、心外ではあるな!俺は怪しいが、君達に危害を加えたりはしないさ!」
「いいから黙って歩け」
「理不尽だな・・・」

 短い通路を抜ければ夜の冷たい風が頬を撫でる。上っている月は三日月。あまり明るくはないが、ライアンの目には夜の街がしっかりと写っていた。

「そういや」
「ん?」
「夜には姫さんと出歩いた事ねぇな」

 呟きを聞いていたエルドレッドがとても――そう、まるで哀れで何も知らない子供でも見るかのような目でライアンを見ていた事など、彼は知らない。