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「おい、あんちゃん」
眠る為に意識を落として数時間ぐらい経っただろうか。不意に肩を叩かれ、ライアンは飛び起きた。まだ外は真っ暗、体内時計を信じるならばまだ日付が変わって間もないくらいの時間だろう。
一体何の用だ、という意を込めて同僚を睨み付ける。大した事の無い用事だったら、ただじゃおかない。
「行くぞ、ちょいと面白い事んなってる」
「あぁ?明日も仕事あるんだぜ・・・勘弁してくれよ・・・」
「いいから、来いって!あんちゃんいないと始まんねぇんだって」
「あぁくそ・・・」
眠たい頭が覚醒していく。もともと、あまり熟睡していたわけではないから目が冴えるのもすぐだった。また寝付くのに時間が掛かると思うと憂鬱である。
廊下へ出てすぐ、見知った顔が見えた。
彼だけはこの人が多い状況で決して個を損なっていなかったので、一目瞭然。ある種のカリスマ性をまとう彼は今日の昼にも会った。
「エルドレッド・・・」
「おっ、ちょっと静かにな。抜け出したなんて王族にバレたら明日は無いぜ」
こっちだ、と状況説明もせずにエルドレッドが歩き出す。この場で置いて帰ってもよかったし、事実そうするだけの力がライアンにはあった。あったが、彼を野放しにしておく事でノーラ姫に何らかの被害やら何やらが起きたらいけないと思い直し、後を着いて行く事を決意。
廊下をひた進うちに、人数が増えてどんどん大所帯になっていく。その中には奴隷だけではなく、村人というか農民達も混ざっているようだった。
「よし、こっちだ。君達がいつも使っている正面の入り口は、衛兵達が護っているからな。いやあ、まだここの抜け道が塞がれてなくてよかった」
それはまさに秘密の通路だった。壁紙で上手く隠されてはいるが、それは恐らく、奴隷小屋の近くにあるこの壁の穴を修理するのが面倒だったからに他ならないような印象。
ここを通ってしまえば、もう引き返せない気がする。
それを理解した上で、ライアンはその通路に足を踏み入れた。本当に末の姫君を思ってこんな明らかな『背信行為』を行っているのか、などと本末転倒な事を考えながら。