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今だエルドレッドと話している同僚を泣く泣く見捨てたライアンは物置へと足を運んでいた。荷物は全部運んだのだから、これで恨まないでもらいたい。
――それに、今日は午後からノーラ姫と会う約束をしている。というか、彼女の周りは何かと居心地が良いので可能な限り足を運ぶようにしているのだ。最近気付いたが、仕事している時以外は全てあの姫君と時間を共有しているらしい。
「あれ、ライアン」
「ん?お、おぉ」
声を掛けられたので顔を上げれば女の姿があった。同僚だという事は分かるが、名前が出て来ないのでとりあえず片手を挙げて応じる。
「随分多い荷物ね、それ。一人で運べって言われたのかしら?」
「あぁ、いや。もう一人いたが、変な奴に捕まっちまったのさ。待ってらんねぇから置いて来た」
「ふぅん・・・。いつもいつも忙しそうね、ライアン」
「そうかね?俺は割と自由気ままに過ごしてるぜ」
「今日も城内に何の用なのかしら?」
微笑む女の笑みが絶対零度のように冷たい事に気付いた。彼女は、ライアンが城内に出入りするのを快く思っていないのだと合点がいく。
理由は様々だが奴隷の仲間達は基本的に、ライアンが城内の出入りをする事を嫌う。誰にもまさか王族の末子と茶をしているなどとは知らないだろうが、面白く無いのは事実らしい。
彼等に王族に対する忠誠心など無い。
――もちろんそれは、ライアンにとっても言える事だが。
「城内で何かしてるわけじゃねぇよ」
「誤魔化すのが下手ね」
「分かりきった事だろ、ンなの」
「ノーラ姫様は元気かしら?」
「・・・・」
そうか、外でも会えば声ぐらい掛けるから。
ライアンが思っている以上に、ノーラ姫と接触している事は周りにバレバレらしかった。当然と言えば当然なのだが。
「姫様によろしくと言っておいてくれるかしら?」
「おう・・・」
ふん、と鼻を鳴らした女が踵を返す。日光を浴びて鈍く輝く枷が酷く目に着いた。