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税が引き上げられてから数日が経った。
反乱だの何だとの騒がれていたが、現在のところ、国民は沈黙している。よって、ライアンの奴隷生活はまだ続けられているという事になる。
――ただし、国内は不穏な空気に包まれており、いつ何が起きたって不思議ではないのだが。
本来余所者であったライアンがそう思うのだから、国王達はその様に気付いているはずである。が、彼等が何かしら対策を打ち出す気配は無かった。どうせ何もしやしない、と高をくくっているのか、或いは城に引き籠もっている為気付かないのか。
後者であるような気がしてならないのはご愛敬だ。
「いつも悪いね、兄ちゃん」
不意に隣を歩いていた同僚がそう呟いた。彼の視線はライアンが引いている荷台に寄せられている。何に使うのはは不明だが、その荷台には溢れんばかりの土が敷き詰められているのだ。
対して、同僚が引いている荷は家畜の食べる干し草しか乗せられていない。どちらかが重いかなど、問うまでもなかった。
「気にするなよ。重くねぇし」
「力持ちだねぇ、兄ちゃんは」
「おう。獣人だからな。それも、完全パワー型」
「あぁ!確かに兄ちゃんは、あれだ、異国にいるっていう虎とか獅子とかにそっくりだぜ。まぁ俺も、一目しか見たことはないがね」
「外から来たのか、あんた」
「奴隷は大概、外から来た人間ばかりさ。そうじゃなかったら、とっくの昔にこの国は内乱国になってる」
――それもそうだ。
いつ奴隷にされるか分からない国で飼われてあげる人間などいない。彼等が内乱・反乱を起こさないのは奴隷が自分達の国から排出されない事を知っているからだ。
「――おい、ちょっとあんた等!」
会話を割るように、若い男の声が響いた。思わず足を止める。
後ろからやって来たその男が、まるで旧知の友人にでも会ったかのような、満面の笑みで手を振っていた。ライアンは眉間に皺が寄るのを感じつつ、そっと辺りを伺う。
――同僚と自分以外、人影は無い。
という事は、彼の知り合いだろうか。ちらり、と同僚に視線を向けると無邪気な顔をしたおっさんは問うた。
「兄ちゃんの友達かい?」
「・・・・・・いいや」
おーい、聞こえてねぇのか!となおも男は騒いでいる。ので、軽く片手を挙げて聞こえていると示した。途端、パッと男の顔が輝く。そのまま小走りでやって来た。もの凄く逃げたい。
近づいて来た男はまだかなり若い――と言ってもライアンとほとんど変わらないように見えるが。金髪にエメラルドグリーンの瞳。典型的なエアリアナ王国に多い人種が持つ色だった。故に、辟易した。
――基本的に、国民は奴隷に話し掛けたりしないのだ。
一体どんな迷惑事を押し付けてくるつもりだろうか。
「やぁ、悪いな、仕事中に。ちょっと道を訊きたいんだが」
そう言ってへらり、と笑った男に対し同僚が心底迷惑そうな顔をした。彼は歳の割に隠し事が苦手である。
「あー、あんた。俺等は奴隷だから。どっから来たのかはしらねーけど、あまりそうやって話し掛けない方が良いぜ」
それは大部分が親切心から出た言葉であり、残りの少量は皮肉が混ぜられていた。が、男は首を傾げる。
「うん?あんた等は何を言っているんだ?」