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小屋へ戻ると同僚達が何やら輪になって話しているのが見えた。数人が集まって会話している事は珍しくないが、それにほぼ全員が参加しているのは珍しいを通り越して不気味だった。
戸を乱暴に開けたせいか、一同の目がこちらへ向けられる。ある者は嬉しそうであり、ある者は憂い顔であり、ある者は首を傾げている。統一性など皆無だった。
輪の中の一人が笑いながら手招きしてくるので、ライアンもまたその輪に加わる。何だか知らないがいつも鬱屈とした空気なのでこういう雰囲気も悪く無いと思えた。前向きになる事は、良い事だ。
「何かあったのか?」
「おう、あんちゃん。聞く奴によっちゃ言い報せだが、悪い報せでもあるな!ま、俺達にはどう転んでも関係の無い話って見方もあるが」
「何だよそれ」
けけけっ、と軽快に笑った同僚は囁くように言った。
「国王が税を引き上げたのさ。奴隷にゃ税金なんざ関係無いが、外の連中は違うからなぁ」
「・・・つまり?」
「暴動が起こるかもしれんぜ。そうなりゃ、俺達は枷の鍵を盗ってトンズラさね」
「あぁ?何で、暴動が起きたら鍵が手に入るんだよ」
ライアンの物分かりの悪さに一瞬だけ絶句した同僚はしかし、気分が良かったのか意気揚々とその『手順』を語る。
「暴動が起きれば城の兵士が出払って、手薄になる。その間に城の中に忍び込んで、鍵を見つけ出すのさ。いくら奴隷の枷つっても、誰かが四六時中管理してるわけじゃあねぇだろう?」
「へぇ、ま、理には適ってるな」
「そうだろそうだろ?」
「しかし、暴動なんて起きるのかね?俺は結構、長くここにいるが、そんなものが起きた事は一度だってねぇぜ?」
「起こす機会が無かっただけさ。人間は、妥協する生き物だからなぁ」
そう言って同僚は笑った。
正直、ライアンの立場としては冷や汗ものである。が、今この場にいる生き残った人間という名の道具達はその起こるかも分からない外の人間達の暴動をあてにして生きて行くのだろう。
それを思えば、正直そんな物騒な事になって欲しくない、と口走るのも罪深いものだ。
だからこそ、ライアンは曖昧な笑みを浮かべた。
「ま、起こればいいな」
「おう!大丈夫だぜ、奴隷全員分の鍵をかっぱらって帰って来てやらぁ。けど、あんちゃんがいてくれた方が心強いぜ?」
「おいおい、冗談言ってんじゃねぇよ。俺は獣人だぜ?暴動なんざ起きたら、一番に前線に連れて行かれるだろ」
「あー・・・そうかもなぁ・・・」
――鍵の在処は、口にしなかった。