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ところで、とまったくいつも通り脈絡無く唐突に姫君は話題を変えた。彼女の話が1分前と今でまったく違うものになるのは常なのでライアンも驚く様子無く、「何でしょう」と応じた。
「ライアンは奴隷生活を辞めたいのかな?ああ、深く考えなくていいよ。答えなんて、どうせ決まっているんだよねっ?」
俺は、とそこでほんの一瞬だけ考える。深く考えなくていいと言った、ノーラ姫の意図を。それを考えるな、と言われた事なんて考えずに。
――しかし、もともと頭が弱いタイプの獣人には結局、姫君の考えている事など1ミリだって理解出来なかった。よって、結果的に考える事を放棄する事に。
「――もちろん、こんなものさっさと辞めちまいたいですよ。もう、俺が来た時にいた仲間達は全員残らず臨終しちまってますし」
「そっか。けれど、あまり悲しそうじゃないね?」
「会って1週間ぐらいしか経ってませんからね」
「そんなものなのかな。私には友達がいた事が無いから、理解してはあげられないね!」
「俺が友達じゃないですか」
さらりと出た言葉に絶句する。首を刎ねられてもおかしくない、侮辱の言葉と取られてもおかしくない事を、今、口走ったのだから。
そんなライアンの不安とは裏腹に、ふん、と馬鹿にするように姫君は鼻で嗤った。
「そうだったね!忘れていたよ!」
「・・・どうも」
自嘲の笑みだったそれを消し、代わりに肩を竦めた姫君は再びキャンパスに視線を移した。白黒の線画をうっとりと眺める。
「よかったね、ライアン!君がここへ来た時期は実に良かったよ!多分、そう長く経たないうちに、奴隷なんて辞めてしまえるだろうからっ!」
「・・・え?」
「栄枯盛衰。今が枯れ時衰え時、ってね!だからライアン、君はその日が来るまで生きているんだよ」
「姫さん?」
ふ、とノーラ姫と目が合う。無表情だった。
「奴隷の枷の鍵は、お父様の部屋にあるよ」
「・・・・」
様子が変だ変だ、と思いながらもその後、姫君は元通りのテンションに戻ってしまったので何かあったのかと聞きそびれた。
――が、彼女の態度の理由を知るのは存外とすぐである。