1.





 しかし悪い事というのは大抵重なるものだ。廊下を走ると兄姉の誰かに見つかった時、怒られるので早足で外へ向かう。無駄に広い城内に意味が見出せない今日この頃。
 ――と、角を曲がった所でノーラは足を止めた。そのまま一歩たりとも足が動かなくなる。

「――ん?よお、ノーラ。珍しいな、お前がこっちの塔にいるのは」
「・・・・」

 二人組だ。ノーラににこやかに挨拶したのは第一王子、ハロルド=アクランド。何一つ言葉を発すること無く佇んでいるのは王様、デイミアン=アクランドつまりノーラの父親である。
 さしものノーラも国王を前に憮然とした態度を取るわけにもいかず、姉と出会った時とは違い優雅に恭しく一礼した。緊張で身体はがちがちである。

「どこへ行くつもりなんだい、ノーラ。折角だ、たまには兄さんとお茶でもしようか?父様も一緒だぞ」
「い、いや・・・私はいいよ。・・・行く所、あるし」
「そうか?」

 第一王子――他の兄姉達と違い、多く歳を食っているせいかこうして穏やかにノーラに話し掛けて来る唯一の親族だ。だが、彼の好意のおかげで逆にやりづらい。放って置いて欲しい。
 そこで少し表情を曇らせた兄の声が小さくなる。それはつまり、周りの連中にはあまり聞かれたくない内容であるという事。

「ノーラ。俺はおまりお前の行動に口出しをしたくはないが、最近、やけに奴隷遊びに嵌っているようだね?」
「遊びだなんて、人聞きが悪い。私は絵を描いているだけだよ」
「それでもだ。体面というものがある。あまり、そういう事はしないでくれないかな?」

 俺は心配なんだよ、とハロルドは目尻を下げた。姉のドリーンと違い、本当に心配されているのがひしひしと伝わってくる。だからと言ってノーラが絆されるはずもないのだが、それでも罪悪感を覚えるのは当然だ。
 何と答えるべきか、上辺だけでもはいとそう言えばいいのか。

「兄様――」
「ノーラ」

 吐き出し掛けた言葉は、それまでずっと事の成り行きをただただ見ていただけのデイミアンによって遮られた。重々しく厳かな声が鼓膜を叩く。
 そうして、国の統治者は一言だけ、末の子に言った。

「遊ぶのもほどほどにしておきなさい」

 ――と。